初恋の君が知っている ~*探偵チームKZ事件ノート~*

10-C ページ38

・ 観客 side



　一人の少年が今、ある少女の部屋の前にいた。



　「羚亜、来たけど。」



　グッと力を入れ、目の前の扉を開く。



　「え…若武？」


　「あ、上杉。」



　少年…上杉は、驚いた表情で、
　中にいた少年と挨拶を交わす。

　その少年は、強く明るいオーラをまとう、
　若武和臣。



　「レイ？」


　「ん、そうだけど。」



　若武は、ゆっくりとベッドに目を落とした。

　…誰もいないベッドに。



　「羚亜、は…？」


　「心配するな。羚亜はいる。」



　混乱したような、眼鏡の奥の目。



　「…黒木から、聞いたか？」


　「ん。」


　「そうか。」



　若武は、悔しそうに目を細め、上杉を見やる。



　「お前に負けるなんて、悔し。」


　「悪ぃ。」



　上杉も、その強い瞳を見つめ返す。



　「…仕方ねーよ、な。」

　
　「は？」



　若武の煌めく目は、
　ただまっすぐに上杉を映し出している。



　「俺、羚亜のこと、好きだし。
　あいつが選んだから、さ。

　もう･･･いいんだ。」



　格好つけながらニヤリと笑う、
　自信家の若武。

　責任感を胸に、しっかりと頷いた、
　冷静そうな上杉。



　「羚亜は、図書室だ。
　渡り廊下の先の。…頼む、上杉。」


　「ああ。…若武。」


　「ん？」



　「ありがと、な。」



　手をあげて、上杉は部屋を出る。



　彼のその鋭い目は。

　冷ややかに、レンズの向こうで輝いていた。







　〜その頃、部屋では…〜



　「なんで、あんな笑顔になるんだよ…

　いつもはあんなに不機嫌なやつが、
　笑うとか…礼を言うとか…



　考えらんね。



　次が怖えーわ。」





　若武は、呟きながら、そっと窓を見やる。





　「お前なら、羚亜を救えるのな…。」






　彼の願いを聞いていたのは、




　窓の向こうに輝く、
　沈みかけの夕陽だけ…。



・

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