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Episode120 ページ33

太宰が薄暗い階段を下りると、いつもの酒場。
カウンターには二人の人影。
今日は太宰が一番遅かったらしい。

「あれ安吾、Aちゃんは?」

座って酒を飲んでいるのは織田と安吾の二人。
最近はAもいるのが恒例だったのだが、今日は姿が見えない。

「首領に呼び出されてました。経過報告とかじゃないですかね?」

「そうなの。」

華がないねと言いながら安吾の横に腰かける。
何となく、マスターにユニオンジャックを頼んだ。

宝石のような紫色。
爽やかさの中に潜む艶美な甘さ。

まさに彼女にぴったりなカクテルじゃないか。

無意識に笑みを浮かべていたのだろう太宰を、二人が物珍しげに眺める。

「……好きなのか?」

「たまにはカクテルも悪くない。」

グラスを指で弄びながら、煌めく液体に心酔している太宰。

「Aが、好きなのか?」

織田が放った一言で、太宰の動きが止まる。
いつもは織田のど直球さを諫める安吾も、無言で太宰の顔を見つめている。

「好き……?」

まるで、そんな単語は初めて聞いた、とでも言いそうな表情。

本人に自覚はないが、太宰は時折こんな反応をする。
頭脳戦が得意の黒組織最年少幹部が、物を知らない子供のように見えるのだ。

「違うのか。Aの話をしてる時のお前は、楽しい夢でも見てるみたいだから、てっきりそうかと。」

織田は愚直な男だ。
見たまま、思ったままを口にする。
彼がそう言うなら、周りには太宰がそう見えているのだろう。

「確かに彼女といるのは楽だし、楽しい……私に対して詮索したりしないし…。」

言っている内にだんだんと声が小さくなっていく太宰。

「太宰君、貴方……。」

安吾はもう付き合いきれないといった表情で、早く気付けという視線を送る。

「でも、彼女心中してくれないし……。そうだよ、中也なんかの部下なのが気に入らないから、私の方を向けば良いのにって…。」

ついに自分でも気付いたのだろう。

生きることに興味のない太宰が、一緒にいて楽しいと感じるだけでも稀有なこと。
気に入らないのは、中也に可愛い部下がいること、ではなく、Aの上司が中也であること。

「あぁ……。」






ユニオンジャックのカクテル言葉は
『誘惑と、_______戸惑い』

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noel(プロフ) - 星猫さん» いえいえ、ありがとうございます (2020年4月14日 19時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - こちらこそすみませんです;;更新頑張って下さいね。 (2020年4月14日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
noel(プロフ) - 星猫さん» お誘いは凄く嬉しいんですが、今年受験生でして…。コロナのせいで今が暇なだけなので、他の方と合作は厳しそうです。誘っていただいてありがとうございます。すみません!! (2020年4月13日 22時) (レス) id: fd0be5fd69 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - あの、私と一緒に合作しませんか? (2020年4月13日 19時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
ぬい(プロフ) - noelさん» うれしいです! 楽しみにしてます (2020年4月11日 14時) (レス) id: 1f95c5a6f6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:noel | 作成日時:2020年4月8日 17時

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