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蕩揺。 ページ5




「さとみくん、部活にはちゃんと行った方がいいよ?それとも何か悩み事?聞くよ、俺でよければ」


「せやで?俺もさとちゃんの悩みならいくらでも聞くで?」


「いやホントに俺悩んでねぇって!今日ガチで用事だから、大丈夫」


いつも通りの曖昧な返事で彼らを誤魔化す放課後。


これは本当に友情と呼べるのだろうかと
自分が彼らの優しさを踏み躙っている気がして
また再び罪悪感に駆られる。



でも今日は雨なのに不思議と足取りが重くない。

自分がちゃんとこの世界の景色としてしっかり
存在し自立している気がするんだ。


通りにあるお店のガラスに反射する自分の顔を見ても
違和感なくちゃんとそれを受け止められるから俺は生きている。



今日カーテンを開けていつもと変わらない雨の
滴る景色を見てどんよりとした気分にならなかったのは何故だろうか。


何故あれだけ雨を嫌った自分がこんなにも雨を喜んでいるのか。




そんな理由ひとつしかない。




「Aさん!」


ぴちゃぴちゃみっともなく水を跳ねさせ
傘を雑に閉じて彼女の座るベンチへと向かう。


相変わらず彼女は分厚い本を読んでいた。
でも俺の姿を捉えたら本から目を離してくれるの、
すげぇ好きだわ。



『また来たんですか、えっと、その…』


「さとみ、な。」



グイッと彼女の顔を引き寄せ急接近してみる。
どんな反応するかな。

顔真っ赤になっちゃったりして。


そんな淡い期待はサッと消え去り普通にビンタを食らう。


……ですよね。

世の中そう簡単に少女漫画的展開が落っこちてて溜まるもんか。



急に冷静になって俺はまた何事も無かったかのようにスマホを弄る。


隣の彼女は読書を再開させる。


そんな何もない無言の時間だったけれどそれだけでも俺の心は色鮮やかで十分と満たされていた。




しかし、幸せな異次元のような時間ほど
あっという間に引き裂かれてしまうこの世の中。



Aさんは俺と会ってから必ず決まって30分しか
この公園に滞在しなかった。



『また雨の降った日に』


昨日とは違う黒色のワンピースがまた
ふわりと靡いた。


俺はその姿がなんだか名残惜しくなって
つい彼女の名を呼び止めた。


「Aさん」



『なんですか』



カシャッ!



振り向いた瞬間を狙って俺はスマホのカメラの
シャッターを切った。



Aさんは何をされたのかよく分からないようで
写真を取られたことに関しても特に言及はしなかった。

悟性。→←墜落。



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作品ジャンル:恋愛
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眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢‪🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時

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