酷愛。 ページ28
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午前9時過ぎ、雨の降る小さな町の片隅にて。
密かに存在するとある公園のベンチで男女が泣きながら欲のままにキスを交わしていた。
それは異様な光景で、でもそれでいてどこか絵になるような美しさを放っていて。
今日が雨降りの日で良かった。
誰も外に出たがらないから。
完全なる俺とAさんの2人きりの世界。
俺らの為だけに用意された最高の空間。
「お前野良猫のくせに何で人間の愛に飢えてんだよ」
冗談めかして言えば貴女は答えにならない愛をぶつける。
"だって貴方が好きだから" と。
キスを交わす視線の下で俺が数日前に酷く憎んだピンク色のスコップが見えた。
誰も目にしないうちに酸化が進み、錆にでもなってしまいそうだ。
『すこっぷ、私嫌いなんだ』
彼女が俺の視線に気づいて小さく言った。
理由を聞こうとしたら俺の口は彼女の唇にまた塞がれた。
角度を変えて、何度でも。
舌は絡ませずにただ甘ったるいキスを。
『まだ5歳とかの頃かなぁ。私ね、実は人間の子供にすこっぷで叩かれたことがあったの』
そっと柔らかいものが離れた時、彼女は髪を触りながらそう告げた。
俺は酷く酸素を求めた。
「…トラウマ、か」
彼女は人間のしなやかな手でスコップを拾う。
『こうやってね、ペシペシ身体を叩くの。もう痛くて痛くて仕方なくて。引っ掻こうとしてもその手はかすりもしない。ただ辛くて…』
彼女は下手くそなりにその当時の有様を表現する。
切ない表情は人間のものなのに語る内容はネコの記憶だから不思議な感覚に捕われる。
『それを助けてくれたのがさとみさんだったんだよ』
「えっ」
最後まで言う前にまたAは俺の口元に自分の唇を重ねた。
『ね、私綺麗?さとみの目にはどう写ってるの?さとみのタイプ?』
俺があの時写真を撮って見せてあげた時の反応を見ればこの子は自分の姿をあまりよく知らないのだろう。
だから俺が教えてあげるよ。
Aさんがどんな人なのか。
「お前はぶっちゃけ俺のタイプじゃないしオマケに胸もない」
ちょっと意地悪しようと思って真顔で答えてみる。
すると本能なのかシャッと爪を立てようとしてくる彼女。
『じゃあ私の初恋は叶わなかったんだ』
…寂しそうな顔の君を正面から見つめる。
「…でもね、お前は俺が出会って来た女の中でいちばん綺麗だ」
好きだ の一言よりも大きな愛。
だからちゃんと聞いて。
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眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時