純愛。 ページ16
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どうして最高に楽しい時間はあっという間に過ぎるのだろう。
理不尽だ。
神様は何故人間に幸福よりも苦痛を与えたがるのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていても所詮学生のちっぽけな脳では答えなんか出せない問題だ。
『さとみさんお風呂ありがとうございます〜』
そんな堅苦しい方向へ傾いた俺を正しい世界へ連れ戻す声がする。
「あっ、お湯加減どうだっ…」
声をかけられた方向へ視線を向け、お風呂上がりのAさんを瞳に映すなり俺の身体は硬直してしまう。
彼女が俺のシャツを着ている。
彼シャツとも呼ばれるやつ。
男なら1回はやってみたいと思うやつ。
ズボン渡さなかった俺天才。
後でこっそり写真に残そう。
ここまでは正常な思考回路。
────────それよりも。
「Aさんちゃんと身体拭いて!?」
『え?』
肩からだらーんとバスタオルがぶら下がっているだけで髪からは沢山の水が滴り落ちている。
これでは雨に晒された後の状態ではないか。
透き通った瞳が俺を捕まえて離さない。
可愛い顔しても許さないからな。
「Aさん!?髪の毛そんなブンブン振ったって乾かないの!猫にだって出来ないよそんなの!犬なら出来るけど!」
『うわっ、ちょっとさとみさん!』
小さな肩から大きなバスタオルを奪いゴシゴシと、でも彼女が痛くないように丁寧に美しい黒髪の雫を撫でるように拭き取る。
『えへへ、私髪撫でられるの好きだよ』
気持ちよさそうに目をとろんとさせている様子。
「うん、それ知ってるよ」
だってお前、この前も全く同じこと言ってたもんな。
だから、それを知ってるから俺はやってんの。
Aさんが喜ぶことしてあげたいから。
──────いい加減気づけ、バカ。
大体興味無い女なんて俺連れ込まないから。
『覚えててくれたんだ!好き…!』
きゅっと控えめかつ強引に俺の腰に抱きつく少女は
天使のようで、でもどこかいたずらっ子な瞳の悪魔のようで。
「…ッ、俺も風呂入ってくるわ。テレビでも適当に見て待ってて」
はぁい!と呑気そうな返事を背中で聞き、慌てて風呂場に駆け込む。
「俺の理性、ちゃんと持つかな…」
頭を抱えてしゃがみこむ。
あのド天然鈍感野郎は天然水のように純粋だ。
俺みたいなやつが汚しちゃいけない。
浴槽に浸かり今の悶々とした感情を鎮めるべく
ぶくぶくと口を潜らせた。
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眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時