あなただから。【青】

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「ころん先生」



おじいちゃん先生が僕を呼び止めた




窓に寄りかかってだだっ広い校庭をただ意味もなく眺めていた僕はゆっくりと振り返る




「何でしょう」



「君、とても悔いがない清々しい顔をしているね」






夏





蝉がうるさかった




あの日と同じ 君と僕が共に時を過ごしたあの夏と同じ匂い





「……僕、結婚するんで」





自分の指に光った指輪を日にかざしてみせた。



それは鈍く光って、濁った。





「え、だってこの間まで君は彼女いないって…、あれ？わしも歳だからなぁ…」



若い子のペースにはついていけない





そう嘆く目の前の先生。


ここに来て初めて動揺した表情を見せた年配教師を見て僕は意味深な笑みを浮かべた。




してやったぜ




今まで散々からかわれてきた分を貴方にお返ししてみせましょう







「…はは、まさか未来予知ですよ」




職員室の冷房が逃げないように僕は開け放った窓を静かに閉じた。



途端に頬を機械が作り出した冷気が僕を凍らせた。







｢いつか。いつか結婚してみせるんです。今日は、終わりにする日。何もかも｣









いつまでもアイツに心配されてちゃ困るからね

Aよりも幸せになってみせるんだから




そして僕を選ばなかったことを後悔させてやる





……なんてね








面談の時に様々な親に自分の指元をさりげなくチェックされるのがウザったくてこの面談期間つけていた指輪




｢あら、ころん先生結婚していらしたのね｣



｢お母さん、やめなよ。先生だってもういい大人だよ｣




"結婚してるに決まってるじゃん"







保護者は本当にお人好しだ

オマケに生徒も生意気だ



娘・息子の担任は結婚していて子供がいるのか



何故かそこを気にする。



いなければ小馬鹿にされるし少しなめられてしまう






｢あーあ、ほんっと精神削られるわこの職業｣









独身であることを紛らわすために使用した指輪を乱雑に、でも消えてしまわないように机に置いた。









本当なら…本当なら、ね






君 に あ げ る は ず だ っ た ん だ け ど な ぁ











「あー！だるい！やってらんないわ！早くお盆休みになればいいのに！」







敢えて僕は泣きそうな顔を隠すために大声で巫山戯てみた




その感情が、おじいちゃん先生に伝わったか否か分からない。





ここまで何かに執着することが出来たのは僕を虜にしたのが


"あなただから"

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