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ガコンっ、と大袈裟な音が鳴る。
ほらよっと僕はAに無愛想なまでに
缶コーヒーを投げた。
『え、何ころんの奢り〜?珍しいね、あの時はジュースひとつ奢るのにも渋ってたくせに』
「いつの記憶だよ」
小学生の頃大きすぎたランドセルを背負った君と駆け回った公園に無意識のままに足を踏み入れていた。
公園に植えられたパンジーの花がちらりと僕を覗いては何を思ったのかただ小さく風に流されるままに揺れた。
『ほんっとに久しぶり。今住んでる所も好きだけど地元だからかやっぱりこういう田舎じみた所は安心するなぁ』
プシュッ、と僕が炭酸を開けた音が何故か古びて聞こえた。
Aと僕の関係は1度も変わることがなかった。
幼馴染。
その六文字に縛られ、
これ以上離れたりもしなければ────
近 づ き も し な い 。
小学生が数年前の僕らみたいに大声を出しながら元気よく下校している姿を横目に流して
"あの頃は良かったな"
と虚しく淋しく思うばかりだ。
無言の時間が産まれて、僕はそのむず痒さに耐えられなくてひたすらに地面を穴が空くくらい見つめた。
目の前を走り去った小さな女の子がAの姿と嫌なほど重なってゆく。
────あぁ、ドジっ子なAみたいだな。
過去を振り返れば振り返るほどあの頃の純粋な僕に戻れない事実が、この世界の原理が、行き先を拒むだけなのに。
そんな中、Aがふぅっと自分の手に息をかけて温めた。
やはり冷えるのだろうか。
外に出てしまったことをたった今後悔した。
「A────」
君を呼べば
美しい潤んだ瞳が僕を捕まえて話さない。
あぁ、僕はお前のその愛しい表情に恋焦がれていたんだ。
恋は盲目。
恋は病。
恋は精神疾患病と同じ症状を持つと現代科学で研究されていることに関して、これはもしや正論なのではないかと僕は思う。
食べたくなるような可愛らしいピンク色の膨らみが
そっと、ゆっくりと動いた。
そして、 言葉 を落としていく。
『ねぇ、ころんはさ、好きな子いるの?』
君の指と缶コーヒーが小さな金属音を織り成した。
「…っ!」
その瞬間、僕は全てを察してしまった。
病弱なまでに弱々しい愛を僕に生み出したのは
"あなただから"
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眠民。 - ころんさんの小説久々にみたのですが‥雰囲気大好きです🤞🏻🤞🏻私的にはハピエンだと思いました。 (2月8日 18時) (レス) @page39 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
なむなむ(プロフ) - すんごく良かったです!私は最後少しモヤモヤしちゃったんですけど、おもしろかったです!\(^-^)/ (2023年4月14日 17時) (レス) @page39 id: da249a0fb7 (このIDを非表示/違反報告)
ふわち - 読んでるとき、思わずないちゃいました…。すごくおもしろかったです! (2022年8月19日 11時) (レス) @page39 id: ed311d2c92 (このIDを非表示/違反報告)
かな?(プロフ) - かけちゃってるんですから。恋って、すごく苦しいものだけど、このお話の恋はその中でも苦しかったです..。報われないなって。長くなっちゃいましたが、考えられるお話をありがとうございました! (2022年8月17日 9時) (レス) id: 1a1d4d0288 (このIDを非表示/違反報告)
かな?(プロフ) - 颯桜さん» このお話、読んでて本気で泣きそうになりました。すごく切なかった...。映画化してほしいくらいですw人間の汚いところとか、逆に苦しいくらいに綺麗なところとか、本当にぐわってきました。ハッピーエンドかもしれないけれど、残酷ですよね。人生の半分を幼馴染に (2022年8月17日 9時) (レス) @page38 id: 1a1d4d0288 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年10月3日 20時