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掠れた声で言葉を紡ぐ征十郎に胸が痛んだけれど、私は目を合わせる事をやめなかった。
視線を逸らしたのは、征十郎の方だった。
「…ははっ、これはかなりキツいな。」
はあっと息を吐いた征十郎が髪を掻き上げて口角を上げた。
その瞬間、真っ赤な髪が額に散らばる。
...本当に、綺麗な人。
そして私と視線を合わせること無く、征十郎はポツリポツリと語り始めた。
「…和奏と縁を切ったなんて嘘だよ。
本当は俺が別れを告げられたんだ。」
「……」
「もし和奏がそんな事を言わなかったら、今でも俺はあいつの傍にいたと思う。
それくらいあいつは、俺にとって大切な人だったから。」
「……」
「和奏やAも、いつかは俺の前から消える…それが怖くて逃げてる弱い人間なんだよ、俺は。」
「……征十郎。」
あなただけじゃないよ。
私だって、今まで色んなことから逃げてきた。
お母さんとの事だってそう。
話せば打ち解ける事が出来たのに、私は逃げて夜の街に通い続けた。
…それに、千尋への思いだって。
叶うはずがないと諦めて、思いに蓋をして見て見ぬふりをした。
だけどその結果、征十郎を傷つけてしまった。
もう、同じ事を繰り返したくない。
「…ありがとう、本当の事言ってくれて。」
「…っ」
そう微笑む征十郎を見て、目頭が熱くなった。
必死に下唇を噛んで涙を堪える。
…私なんかが、泣いちゃダメだ。
「…だからね、これは受け取れない」
後ろへ腕を伸ばし自身の首にかかる宝石をそっと外す。
そして掌に乗せて征十郎へ差し出した。
「…そうか。」
受け取り、俯く征十郎だから今どんな表情をしているのか定かではないけど、
ネックレスを握りしめている手が僅かに震えているから
きっと…
「…最後に、抱きしめてもいいか?」
「……っ」
私の答えなんて求めていないのか、答える前に包まれた自身の身体。
途端に、征十郎がいつも付けている優しいフゼアの香りが鼻をくすぐった。
きっとこれが最後だ。
「…ごめんね、A。
お前の気持ちを知っておきながら、その優しさに甘えてしまった。」
「……」
「今お前が誰を好きで、誰と一緒にいたいのか…分かっていたのに。」
「……っ」
「…すまない。」
「ありがとう、A。
もう…俺の手を離していいんだよ?」
耳元で聞こえる、掠れた声。
堪えていた涙が頬を流れた。
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美樹菜(プロフ) - 赤司くんと黛先輩が好きなので、こういう小説見れて嬉しいです。これからも頑張ってください。 (2019年1月2日 23時) (レス) id: a4e34be67d (このIDを非表示/違反報告)
黒路 - 結局最後まで自分に甘いだけですね夢主ちゃん。現実にいたら恋愛でも結婚でも長続きしませんね。 (2018年9月18日 7時) (レス) id: fa1a11a816 (このIDを非表示/違反報告)
羅夢(プロフ) - かふぇらぺさん» ありがとうございます!夏休み終わってしまいました...全然更新出来ず申し訳ないです...。 (2018年8月22日 18時) (レス) id: 56b708a054 (このIDを非表示/違反報告)
羅夢(プロフ) - ぴこさん» いつも感想ありがとうございます!!長い間更新出来ずにすみませんでした。 (2018年8月22日 18時) (レス) id: 56b708a054 (このIDを非表示/違反報告)
羅夢(プロフ) - 黒路さん» 黒路さん、初めまして!読んでもらえて嬉しいです。そうはっきり言ってもらえるのとってもタメになります!あがとうございます!! (2018年8月22日 18時) (レス) id: 56b708a054 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:羅夢 | 作成日時:2017年11月5日 14時