第二話 鎮魂曲 ページ4
半年前、澪奈が亡くなった。
その事実はどう足掻こうと変わることは無く、僕の心に大きく穴を開けた。
いつものように放課後になると、音楽室で二人で日々の日常で起きた出来事を話し、笑って、時々ピアノを連弾する。
毎日、いつも―――いつも。
澪奈は、自ら命を絶ったと聞いた。
彼女はそんな素振りを一切見せなかった。笑顔を浮かべて、最近出来たトモダチのことを嬉しそうに語っていた。
・・・僕が、ただ気付かなかっただけかもしれない。
「ッなのに!」
行き場のない、憤慨する感情を鍵盤にぶつける。
ラクリモーサ『涙の日』。死者のためのミサ曲―――
僕は、彼女の苦しみも知らないで今まで何をして来た?
ただのうのうと、何の変哲もない日々を繰り返して、生きていた。
「・・・神がいるというのなら、罪ある者が裁きを受けるために」
―――どうか許して欲しい。
そして、僕と言う人間を決して許さないで。
「彼らに安息をお与えください、か?」
「―――柊、先生」
演奏を中断して、後ろへ振り返る。
そこには、担任である柊一颯がドアの横に立っていた。
「もうすぐHR始まるぞ」
わざわざ呼びに来てくれた先生に感謝しながら、ピアノの蓋を閉める。早く教室に向かわなければ間に合わない。
そう思って椅子を立とうと横を見た途端、僕は目を見開いた。
柊先生の顔が真正面にある。
何故、という前に、僕は冷静に先生の顔を見つめる。
無造作にされた暗い茶髪に、顔の上半分を覆う楕円型の眼鏡。くすんだシャツの隙間から、首元まである白いインナーが覗いている。
焦げ茶色のスーツで身を包んだ、その姿はレトロで御洒落だ。
「見惚れた?」
す、と形の良い目を細めて、先生は僕を真っすぐ見据える。
見惚れなかった、と言えば嘘になる。だけど、それは普段長い前髪で隠れた整った顔が見えたからだ。
前担任が休職した代わりに担任になった半年だけの先生など、どうとも思わない。
僕は彼女以外、今後興味を持つことなんてないだろう。
「僕が、先生に?・・・有り得ない」
そう言い放った途端、無性に嫌な予感がした。
先生の纏う雰囲気が、一変して変わった。息を吐くのも忘れ固まっていると、先生は僕の耳元で囁く。
「――――、――」
「ッ・・・!」
耳に掛かる熱い息に耐えきれず、少し強く先生の上半身を押すと、僕は教室へ早足で向かった。
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蒼炎(プロフ) - とても面白いです!主人公と柊先生の絡みが物凄く好きです!続き待ってます!お願いします!! (2021年4月20日 22時) (レス) id: bdaf0ebad8 (このIDを非表示/違反報告)
葉紅(プロフ) - もう更新しないんでしょうか?すごく面白いので続きが見たいです。更新楽しみにして待っています! (2020年9月27日 1時) (レス) id: 915a610475 (このIDを非表示/違反報告)
蒼炎 - もう更新しないのでしょうか?是非、待ってます! (2020年9月7日 21時) (レス) id: 62727f5aad (このIDを非表示/違反報告)
飛鳥(プロフ) - 物凄く大好きです!これからも頑張ってください!楽しみに待ってます!! (2019年4月6日 15時) (レス) id: 4cf65d0de3 (このIDを非表示/違反報告)
九重 - じわじわと男主を喰っていく柊先生(精神的に)ドロドロとした独占欲が堪らない!堪らない!ありがとう!ありがとう! (2019年3月28日 23時) (レス) id: b60eca276a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空天 馬 | 作成日時:2019年1月13日 0時