第十五話 ページ17
.
『お母さん、ベンチ側の観客席で応援してるからね。』
出発前、母親がそう言った。
特に母親の応援などを気にするわけでもなかったが、
ふとアップ中にその方を見ると
久しく見ていなかったAの姿があった。
Aはあまり浮かない顔で、
自ら応援しに来たのではないと分かった。
あの時のトラウマのようなものが、
まだ癒えていないのだと分かった。
『若利、ナイスキー』
俺にあがったトス
ｽﾞﾄﾞｫｯ
上がればいい
上がるだけでいい
《ごめん、今のちょっと低かった！》
お前のその打ちやすい俺だけのトスは、
なくていい
なくていいから、
《…ナイストスだ》
《…！！ありがとー！！としくん！！》
その笑顔だけは
なくさないでくれ。
《… ごめん、としくん……今日は帰って》
あの時、俺は何もできなかった。
何もしてやれなかった。
でも、
またお前がバレーを見てくれるなら、
俺の姿を見てくれるのなら、
俺はコート上に立てないお前の分も
全てをかけてバレーをしよう。
そして、その俺の姿で
お前がまた笑ってくれるように
俺は、
お前のためにバレーをしよう。
だから見ていてくれ、A
ﾋﾟｰｯ
試合開始のホイッスルが鳴った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 120人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にゃん吉 | 作成日時：2020年1月21日 23時
