【刀剣乱舞】霊力循環異常症候群Ⅱ型専門医助手 (ページ7)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:4,574 hit

・ページ7

近侍の刀剣男士への問診、審神者の軽い身体検査を終えると、今日はそれでおしまいだった。

　「本日はありがとうございました」

何も無かったかのような清々しい笑顔で、へし切長谷部は言った。

　「門までお送り致しましょう」

へし切長谷部がそう言って審神者の横を立とうとすると、審神者がまた呻き声をあげた。

　「主、大丈夫ですよ。俺は少し行ってくるだけです。すぐ戻りますから」

へし切長谷部はそう言って、審神者の手のひらに口づけをした。

　帰り道、私たちは終始無言だった。

　今まで、通吉と共に私は何十もの症状を診てきた。おそらく、判明しているSCAS Ⅱ型の患者は全員顔見知りだ。

　だけど、今回の審神者は見たことがないほど重症だった。

　「なあ、A」

突然、通吉が口を開いた。

　「最後、へし切長谷部が審神者の手のひらに口づけをしたのを覚えてるか？」

　「え、あっ、うん」

　「手のひらへの口づけってのはな、“懇願”の意味を持つんだ。

　……あいつは、一体審神者に何を願ったんだろうな……」

それだけ言って、通吉は再び口を閉じた。

　通吉は、何度もⅡ型患者の死に立ちあっているから、この症状が示すことを知っている。

　あの審神者は、あと一ヶ月としてもたないだろう。

　そして、へし切長谷部はそれに薄々気づいている。

　この仕事が嫌いだ。

　この仕事だと、たくさんの報われない思いに出会ってしまう。

　報われない思いほど、見ていて辛いものはないのだ。

　あの口づけの願いは、きっと叶わない。