（23.） ページ29
23.
.
卒業式を無事に終え、同級生が皆、別れを惜しみ涙を流している姿を樹は冷めた目で眺めていた。
樹に友だちと呼べる人など、こーちくらいしかいない。
｢樹、相変わらず冷めてんなぁ｣
｢別に永遠の別れじゃないんだし、会おうと思えばすぐ会えるじゃん｣
｢そうゆうことじゃないじゃんか｣
｢…わっかんねぇ｣
｢そんなこと言いながら、俺と離れるの寂しいでしょ?｣
｢別に｣
｢即答かよ、最後まで樹らしくて逆に嬉しいわ｣
｢そりゃどーも｣
樹はしばらくこーちと無駄話をし、こーちが帰ると机に伏して眠り込んだ。
すぐに帰ってもよかったが、外の混みようが億劫でしばらく夢の中で暇を潰すことにした。
そんな樹とは反対に、Aは卒業式を終えてもゆっくりすることはできずにいた。
Aとの別れを惜しむ後輩が彼女のもとに殺到し、しばらく帰れそうにもない。
同級生が次々と帰っていくのを心の中で羨ましいと思いながらも、自分を慕ってくれた後輩達を無下に扱うことはできず気がつけば夕暮れ時となってしまった。
オレンジ色の空を眺めながら、Aは今日1番会いたかった人に会えていないことに気がつき、胸を痛めた。
しかし、それはもう仕方のないことだと自分に言い聞かせ、帰るのも惜しいと思い始めたAはゆっくりと校舎を散歩することにした。
慣れ親しんだ校舎を最後に目に焼き付けるように、1人で思い出巡りをする。
何度もスピーチを行った講堂、大好きな絵画のある美術室、ラウンジの一番奥のテーブルにこっそり残した落書きを指でなぞり、Aは小さく笑った。
どこにいっても、青春時代を謳歌した自分の姿を想像できた。
でも、Aが見たかったのはそんなんじゃない。
Aはなにか、物足りないと感じた。
その影を探し求めるように、Aの足は自然と3年の教室へと向かった。
しかしそれは自分の教室ではなく、2つ隣の教室だ。
Aはそっとドアを開け、静かにその教室に忍び込んむ。
誰もいない教室…のはずが、そこにはすでに先客がいた。
後ろの方の席に突っ伏して居眠りする彼の姿に、Aは思わず駆け寄りたくなる気持ちを抑え、ゆっくりと近づいた。
少し離れてても寝息が聞こえるほど、彼は熟睡していた。
Aはそっと彼の前髪に触れ、間から覗く長いまつ毛を愛おしそうに見つめた。
｢樹…｣
Aの口から漏れた彼の名前は、泡になって消えてしまいそうな程脆く儚い感じだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 303人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さいか(プロフ) - ちいさん» お褒めの言葉、ほんっとうに嬉しいです(;_;) 最後までどうぞよろしくお願いします！！！ (2019年1月25日 20時) (
レス) id: f4b2406715 (このIDを非表示/違反報告)
さいか(プロフ) - ゆりさん» コメントありがとうございます！ ぜひ、最後まで楽しんでください！！ (2019年1月25日 20時) (レス) id: f4b2406715 (このIDを非表示/違反報告)
ちい(プロフ) - 初めて読んだ瞬間、なんて素晴らしい文章力だろうと感動しました。個人的に大我くんが好きなので、女の子と上手くいって欲しいな…と祈りながらも楽しく読ませて頂きます笑 これからも応援しています。 (2019年1月24日 20時) (レス) id: a3ba396e6d (このIDを非表示/違反報告)
ゆり(プロフ) - 今回の作品もとても楽しみにしています！ (2018年12月21日 11時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さいか
| 作成日時：2018年12月20日 23時
