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21:30
シャワーを浴びてリビングに一人。
何を見ても全く内容が入って来ないのは当たり前だ。遠くで水が落ちる音が聞こえる。この音も、最初で最後なのか。
そう思ったら、途端に胸が苦しくなる。せっかく家にまで会いに来てくれたのに。本当は嬉しかったのに。抱き締め返したかったのに。
もう、それも叶わないのか。
そんなことすら出来なくなるのか。
そんな事を考えていたら、リビングの扉が開く音など全く耳に入って来なかった。愛しい足音さえ、気付かなかった。
「まーた乾かさないでテレビ見てる。下座って」
ドライヤーを片手に、彼は穏やかな顔で私にそう促した。
下に降りて、ソファーが重みに沈むと温風と細い指とが私の髪を撫でた。
余りこんな事をしてもらった事はないけれど、触れる指先がただ優しくて、愛おしくて、私は堪えていたものを抑えきれなくなった。
テレビとドライヤーの音が私の音を搔き消す。
今だけは、許して欲しいと願った。私の弱さを。
彼がいる今、この時を、全身で感じたいと思った。
髪が乾ききる頃には、もう自分も元通りだった。ドライヤーの音が切れて、テレビの音がやっと聞こえた。
「寝よっか」
『…うん』
23:00
樹のベッドより狭い私のベッドは二人横に並ぶのがやっとだった。
背中に感じる温もりが儚いと感じた。
「A」
彼が呼ぶ、私の名前が好きだ。初めて会った時、彼が良い名前だと言ってくれたから。
「ニキビできてる」
『…見えないでしょ』
「バレた(笑)」
こうやって、ただ下らない話を寝る前にする夜も大好きだった。二人で布団の中で笑い合う夜も大好きだった。寝るまで笑わせてくれる彼が、大好きだった。
日付が変わったら、私たちは姉弟に戻る。
出会った頃の様な二人に。
目を閉じたら、生まれ変わらないだろうか。
何のしがらみもない。まっさらな二人に。
誰も辿り着けない、二人に。
心の中だけは、生まれ変わらない。
例え生まれ変わったとしても、再び巡り会えるように。
そんな願いを込めて、囁く。
「……おやすみ」
『…おやすみ』
吐息がぶつかる程、近くでおやすみを囁いて目を閉じた。
23:58
隣の温もりが離れていくのを感じる。
私は目を開かない。開けない。
少しベッドが軋んで、額に柔らかい感触を確かめた。
______最後もなかなか唇にしてくれない、狡い人
遠去かる気配が、私を支配した。
第1章、完
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:絹(プロフ) - みなさん» ありがとうございます〜(/ _ ; ) 期待に応えられるようにがんばります◯ (2019年8月4日 0時) (レス) id: c52fa03a53 (このIDを非表示/違反報告)
みな(プロフ) - 何回読み直しても飽きないです^_^ (2019年8月2日 1時) (レス) id: fa95af4103 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新待ってました! (2019年6月22日 16時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新していただきありがとうございます!ずっと待ってました! (2019年3月7日 11時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
さやめめ(プロフ) - 私もとてもショックを受けましたが、またこうして更新をしていただき有難いです。とても楽しみにしていました、これからも応援しています。 (2018年12月1日 15時) (レス) id: 0eff97111c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:絹 | 作成日時:2018年4月2日 19時