19 ページ19
そして私は彼の面倒を見ることとなったのだが、恐ろしいほどに何も変わらなかった。
唯一変わったとするならば、どこかニヒルに人に対して接していたところが
純粋に意の赴くまま息を吐くようになったところだろうか。
ただ、二人でご飯を食べに行ったり彼の空きコマの時間にカフェに呼び出されたり
全くと言っていいほど悪意の感じられない態度に私は絶句するしかなかった。
今も目の前で来たばかりのカフェラテをストローでかき混ぜている。
男女間のそういう行為の要求をするでもなく、最早身体的な距離さえ気遣っているのかきちんと置いてくれている様に思う。
2人でいるのも慣れて、その空気感というものが私には嫌なものに思えなかった。
私の言葉に一喜一憂するでもなく、一緒にいてもいなくてもただ自分の時間を過ごしている、そんな雰囲気だった。
『飲んだら授業行ってね、』
「ん、今日は３限で終わりだから。食堂集合にしよ」
『…今日はごめん、用事があるから』
初めて京本くんの誘いを断った。
彼の眼の温度が一気に下がった気がした。
「何？」
『お見舞い行くの、お祖父ちゃんの』
「……そ、なら仕方ない」
心配しなくても密会しようだなんて思っていない。
彼を守るために自分から遠ざけたのだ。
「お祖父さん、早く良くなるといいね」
帰り際、そう言い残して去っていった。
本当にそうだったらどれほどいいのだろうか。
お祖父ちゃんが今も変わらず元気でいてくれたら私を縛るものなど何もなくなるのだというのに。
お見舞いはせめてもの罪滅ぼしだった。
僅かな命を握る家の息子と婚約し、その家の弟と不貞を働いていたのだから。
そして決心を揺るぎないものにするためだった。
私がやっていることは間違いではないのだと、
誰かに後ろ指をさされたって彼に危害が加わらない世界があるのならばそれが最善な選択なのだから。
『…お祖父ちゃん、久しぶり』
余りにも白すぎる病室は逆に病気になってしまいそうな程私に圧迫感を与える。
嫌な感じを振り払いながらも、私は語りかけた。
『お祖父ちゃんのためにお嫁に行くの、私』
『花嫁姿、見せてあげるね』
裏切るようなことをしてきた女に何も望まないとしても
それが私に託された使命なのだとしたら
それを全うすることが救いになるかもしれないと
そう思ったのだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1766人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
：絹(プロフ) - みなさん» ありがとうございます〜(/ _ ; ) 期待に応えられるようにがんばります◯ (2019年8月4日 0時) (
レス) id: c52fa03a53 (このIDを非表示/違反報告)
みな(プロフ) - 何回読み直しても飽きないです^_^ (2019年8月2日 1時) (レス) id: fa95af4103 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新待ってました！ (2019年6月22日 16時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新していただきありがとうございます！ずっと待ってました！ (2019年3月7日 11時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
さやめめ(プロフ) - 私もとてもショックを受けましたが、またこうして更新をしていただき有難いです。とても楽しみにしていました、これからも応援しています。 (2018年12月1日 15時) (レス) id: 0eff97111c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：絹
| 作成日時：2018年4月2日 19時
