真夏の原動力。１ ページ1
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「しょうた？」
リハ室の鏡の端っこに向かって
ひとり座っていた俺のそばに
涼太が近づいてくる。
名前を呼ばれて
背中から首筋に何か走る。
ぞわぞわするっていうか…
寒気とは違うんだけど。
他の誰にも、そんなことなんない。
涼太だけ。
「…なに？」
そんなこと、悟られたくない俺は、
いつも気のないふりをして、
ぶっきらぼうに答える。
直接涼太の方も、鏡越しにも見ず、
すこし視線を伏せた。
「ん、水分とりなよ」
視線をずらせば、
差し出されたペットボトル。
今練習したダンスの振り付けを
必死に頭の中で反芻していて
そういえば休憩中なのに、
水分をとっていなかった。
「今日は気圧が一気に下がるらしいよ。
阿部が言ってた」
頭痛持ちの俺を
心配してくれているってことか。
ライブリハに、特番のダンス練習、
それに初めてのドラマ主演を控えて
若干キャパオーバー気味な俺のこと、
多分わかってんだろうな。
「あー、うん。じゃ、もらうわ」
「うん」
視線を涼太の方にむけないまま
ペットボトルを受け取ると、
そのまま涼太は俺から少し離れたところ、
鏡に背を向けて座った。
心配してるとか、はっきりとは言わない。
むしろ、何も言わない。
でも、さりげなく、絶妙なタイミングで、
こうしてぽつりと声をかけてくる。
で、今みたいに微妙な距離を保って
俺のそばにいたりする。
せっかくだからと
ペットボトルを開けて、飲むと
のどが渇いていたことに気づく。
「うまっ」
「それは何より」
鏡の中に視線を彷徨わせると、
見えるのは涼太の後頭部とがっしりした背中。
きれいに染まった金髪。
「…いつまで金髪にすんの」
「あー、しょうたは
ずっと金髪でって言ってくれたけどね、
仕事で戻さなきゃいけないから。それまでだね」
俺が冗談みたいに配信中に言ったこと、
受け止めて、律儀に答える涼太。
「…ふーん、そっか」
そのことに、すこし心がざわめくから、
視線を三角座りしている膝に落として、
あまり感情をのせないように応じた。
金髪、本当に似合ってんだけどな。
もう少しで終わりかぁ。
でも、黒髪に戻さなきゃいけない仕事ってー
「まだみんなには言ってないんだけど、
和装の大きな仕事、決まった」
その言葉に、ぱっと顔をあげると
やっぱり鏡には、涼太の後ろ姿しか映っていない。
直接涼太のほうを向くと、
顔を傾けてペットボトルを飲むところだった。
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作者名：ほたて | 作成日時：2023年1月4日 20時
