156 ページ7
.
もう離れたくなくて。
今の状況が夢みたいで。
幼馴染のAの面影は見た目には全くないけれど。
……もうどこにも行かないように、もう二度と失わないように、ギュッと抱きしめた。
「うっ、く、苦しいっ、」
阿部「あっ！ご、ごめん、つい」
抱きしめすぎて、苦しそうな彼女の声でハッとして慌ててすこしだけ力を弱める。
抱きしめすぎて窒息死させたら、それこそ後悔してもしきれない。
「ん、大丈夫。でもそういえば亮平は、なんで私だって信じてくれたの？」
不安そうにそう尋ねる彼女を安心させたくて、また少しだけ腕の中の彼女をぎゅっと抱きしめる。
阿部「うん、俺自身も不思議なんだけど……。」
言葉では上手く表現出来ない。
きっとこれがA以外の存在だったなら、オカルトだって流すかもしれないし、気味の悪い冗談だねって笑いのけるに違いないのに。
阿部「今まで何度もAを思い出すことがあったから、変だとは思ってたんだ……。」
この気持ちは何なんだろうって。
……消さなきゃいけない感情だと思ってた。
阿部「でもこの絵を見たら確信した。君は、Aだって。」
自分でも彼女が本当にAなのか、試しもしないで、確認もしないで、確信するなんて、なんて非論理的なんだろうと思う。
思い出を試すように問題にして、彼女が答えられるか試してみることなんて簡単に出来るのに。
でも、それすらする必要が無いと思ってしまうくらい、俺は目の前の彼女の中にAを感じている。
不思議と彼女に惹かれた自分自身の行動こそが、根拠なんだ。
理性で制御できない今までの言動が、俺自身に彼女の存在を証明していた。
彼女が、俺と初めて会ったとき、俺の名前を呼んだと思ったのは勘違いじゃなかったんだな。
"亮平"。
Aが呼ぶ自分の名前が、何より大好きだった。
声色が変わった今でも、見た目が変わった今でも。
何故だろう。
Aに呼ばれる名前は昔と変わらない。
心地よくて、懐かしくて、切なくて、
＿＿＿＿＿愛おしい。
言いたいことも言えないまま、失った愛しい人。
今この腕の中に、確かに感じるAの存在。
ずっと、このままこうして居たい。
だけど、時間は進んでいく。
俺たち二人の間を割くように、下校を告げるチャイムが校舎に鳴り響いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 522人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たぬ(プロフ) - 朝桐さん» 最後まで読んで頂けただけでも嬉しいのに、宝石みたいにキラキラした素敵な感想をありがとうございます。頂いた言葉全てが宝物です。こちらこそ出逢ってくださりありがとうございました。 (3月21日 23時) (
レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございました！涙なしでは見れなくて、とても生きててよかったと、見れてよかったと。運命といいますか奇跡にただ救われました。執筆活動お疲れ様です。今後のたぬ様の日々が愛に溢れますように。本当にありがとうございました！ (3月18日 22時) (レス) @page43 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - みみみさん» お読み頂き、素敵な感想までありがとうございます。楽しんで頂けたのなら本当にすごく嬉しいです！こちらこそ、ありがとうございました！ (9月6日 23時) (レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - 今日初めて見つけたこの作品、１話から今まで全部いっきに読みました☆本当に素敵な作品でした😊ありがとうございました！！ (9月2日 17時) (レス) @page43 id: 10d256d720 (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - 桜色さん» とっても優しくて愛のある感想を送ってくださってありがとうございます。どの言葉もとても勿体ないくらいですごく嬉しいです。最後まで読んで下さってこんな素敵な感想まで下さって、こちらこそありがとうございます！ (6月5日 22時) (レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たぬ | 作成日時：2022年8月24日 22時
