１６３ページ ページ13
ー多分、いやきっと。
この公園に来ることは、生涯ないのだと思う。
『夜19時、待ってます』
生暖かい、春の風が頬を撫でた。
さっきから震えが止まらなくて、生唾ばかり飲み込んでる。
ポツンとそびえ立つ時計は、6時50分を指していて。
あと少しで
怜央くんとの関係が、終わる。
変な汗まで吹き出してきて、慌ててハンカチを取り出そうとしたその時。
｢ごめんね、待たせて｣
不意に後ろから、ぽんと軽く肩を叩かれて。
振り向けば、そこにはいつもと変わらない怜央くんの姿があった。
これから自分が何を言うか
どんな残酷なことをするのか
考えただけで、罪悪感と嫌悪感で潰されてしまいそうだった。
｢珍しいね？いつもAが遅刻してたのに｣
｢た、確かに……そ、だね｣
上手くまわらない舌。引きつる笑顔。
怜央くんは首をかしげ、変わらない声色で言う。
｢……で、どうしたの？｣
走りすぎるトラック。やがてまた、無音になる。
泣くな。私が泣いて良いわけない。
自分で決めたことじゃない。
自分が選んだことじゃない。
だから。たった一言を。勇気出して。
｢わか、れて……くれませんか？｣
顔を上げられない。目が見れない。
痛いくらいに、拳に力を込めて。
｢何それ｣
｢え……｣
｢もっと強く言ってよ。
俺が嫌だ、って言ったらAはどう答えるの？｣
胸が張り裂ける。滲む視界。
厳しい口調なのに、どうしてそんな安心するように笑うの。
これから言うことわかってるクセに
どうしてそんな優しくするの。
どうしてキミは
どこまでキミは
私を想ってくれるの。
もう嫌ってよ。『願い下げだ』って。
お願い。お願いだから。嫌いになって。
｢別れて、ください｣
ゆっくりと、頭を下げる。
こんな言い方で良いのかな。固く目をつむる。
｢よく言えました｣
そんな言葉が、聞こえてきて。
私は驚いて顔を上げ、怜央くんを見た。
｢気づいてた。結婚式のときから。
だって俺が抱き締めるまで｣
一旦止まる唇。
まるで何かを思い出すように──綺麗な瞳が、夜空を仰ぎ見た。
｢A、ずっと永瀬のこと見てたから｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2138人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「永瀬廉」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ろいなな - 主人公がどっちと幸せになるのか、ドキドキハラハラしつつ、どこか切ない感情が湧いてきて、ラストの予想外の展開に驚き、読み終わる頃には感動の溜め息を溢してしまいました。とても面白かったです！ (2019年7月12日 21時) (
レス) id: 867fd5dec2 (このIDを非表示/違反報告)
ろいなな - 最初は廉くんの小説を読んでみたいという気持ちで読み始めたのですが、怜央くんも出ているのかと感激してしまい、一日中かけて読みきってしまいました…！ (2019年7月12日 21時) (レス) id: 867fd5dec2 (このIDを非表示/違反報告)
＃かのん(プロフ) - 受験が終わって、やっと解禁した｢雪月花の思い出｣。２日で読み終わってしまいました。はじめてれなさんの作品を拝見した時から、ずっとずっと大ファンです。本当に感動しました。この作品、大好きです！ (2019年2月16日 14時) (携帯から) (レス) id: f71de401a4 (このIDを非表示/違反報告)
輝 - 感動しすぎて、涙が止まりませんでした。こんなに感動して、心を動かされる作品を作れるれなさんを本当に尊敬します。ありがとう。 (2019年1月14日 2時) (レス) id: 4c9c32bd1b (このIDを非表示/違反報告)
なつき - とても感動しました。いつも、ありがとうございます。 (2019年1月13日 20時) (レス) id: c54ace13cd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れなさん
| 作者ホームページ：れなちゃん(@pinky_t17)さんをチェックしよう https://twitter.com/pinky_t17?s=09...
作成日時：2017年2月10日 17時
