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ガコン、と黎明は思わずきしんだ手すりをもぎ取った。興奮と歓喜からか、黎明の額には若干の汗が浮かんで息も上がっている。瞳はぎゅっと細くなり、その姿はまるで獣だ。
だがそれ以上に、今彼女の視界に入っているものの方が立派な獣だった。真っ直ぐ見据える黎明の視線の先にいたのは、
ガルルルルル
「っ見ろ、なんて健気な猫だ…」
(猫?)
何をどう見たらあれが猫なのだろう。何処からどう見たってあれは、猫なんて可愛い生き物ではないではないか___黎明の後ろで見ていた5人は肩をすくめて冷や汗を流す。
黎明にはもう、じゃれつく猫にしか見えなかった。此方を目視して沸々と伝えてくる欲望の塊も、段々と増す押し潰されるような圧も、全てが彼女の本能をくすぐる物でしかない。命が奪われるかもしれないという恐怖、想像もできない未来の事………気付いた時には「はあ…」と色あるため息が漏れ出ていた。
一方相手はと言うと、此方を睨みつけてくる以外に何もしてこない。此処まで味方も敵も屍が転がっていて、何の感情も湧かない訳がないのに。
すると黎明が笑みを湛えたまま、小さく教える様に呟く。
「必死で抑え込んでいるんだよ。感情に飲まれて勢いのままに乗るのではなくて、ちゃんと彼は計算しているのサ。」
__どうすれば確実に自分たちを殺れるのか、ね。
言葉を聞いた瞬間5人のうち4人は揃って震え上がった。動揺が走って、相手はそれを感じ取ったに違いない。
今までとは格が違うとはこのことだ、絶対に間違いなくここで自分は殺されてしまう!!……だが4人のうち、最後に生き残った1人の女は冷静に物事を捕らえていた。他の4人とは覚悟が違う証拠である。黎明はそんな彼らの反応を見据えた上で、両手を掲げて大声で叫ぶ。
「10年?……いや、15年前だ!!なあ!!ここまでくると最早運命だと言わざるを得ない!!!」
と、今まで無駄な動きをしていなかった黎明がダッと駆け出した。骨が折れてもおかしくない高さから階下へ迷いなく飛び降り、ジャランと身に付けているアクセサリーが着地の際派手に音を立てる。着地した時の衝撃はたまったものではないだろうに、それでも彼女は止まることなく時間を惜しむかのように相手との距離を詰めていく。無傷なのが不思議でたまらなかった。
異様なスピードで近づきながら、黎明は頬を紅潮させて嬉し気に相手に話しかける。
「覚えているよ私は……伏屋虎牙!!」

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カメレオン(プロフ) - 紅鏡さん» ありがとうございます!ボードでもお礼頂いたのに、此方にも来て下さって作者感無量です。これからも頑張ります宜しくお願い致します👐 (2022年11月19日 22時) (レス) id: 2d4ca43412 (このIDを非表示/違反報告)
紅鏡(プロフ) - うちの子出してくださりありがとうございます!!!ついにFBRのメンツ登場ですね…!Aの末裔対FBRの対決が遠くないことに興奮を隠しきれません。今後の展開が楽しみです!応援しております…! (2022年11月13日 14時) (レス) @page17 id: 61dd538487 (このIDを非表示/違反報告)
カメレオン(プロフ) - ありがとうございます、素敵な感想頂けて嬉しいです…!了解致しました、香南和さんとの絡みもドンドン交えていきますね💪 (2022年3月28日 1時) (レス) id: c4e2688920 (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぷこーん(プロフ) - なんだかものすごくかっこよく書いて頂いてとっても嬉しいです…!黎明さんとの絡みが好きなのでできればもっと書いて頂ければなぁ…と思います、笑 (2022年3月27日 12時) (レス) @page2 id: 334918148c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カメレオン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/snow17111/
作成日時:2022年3月26日 17時