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「A悪い!待たせた!」
「ううん。今日も部活お疲れさま、アツヤ」
息を切らして走ってきてくれたアツヤに微笑んだ。
そして、どちらからともなく手を繋いだ。
冷えて感覚を失いかけていた右手が熱を灯す。
そのまま校舎を出ると、ザクザクと新雪を狙って足跡を残しながら、私たちは家路に着いた。
北海道の冬は一段と寒い。
何年もこの場所で生活してきたから、その寒さには慣れているつもりだけれど、結局寒いことに毎年変わりはない。
ーーーアツヤが保健室を突如訪れてきたあの日から、数ヶ月が経った。
「アツヤ」
「ん?」
「…呼んだだけ」
「何だよ」
むっとしつつも、爽やかに笑う彼の横顔を見ては、心臓がとくんと跳ねる。
最初は、男の子を名前で呼ぶことに慣れていない私は躊躇ってしまっていた。
だからこうして、自然と呼ぶことが出来るまでに随分と時間を食ってしまった。
ふと繋いだ右手を見てみると、改めて私たちは、晴れて恋人同士になったんだなって実感する。
「そういえば、どうしてあの時、保健室に来てくれてたの?怪我とかしてなさそうだったし」
「それは…」
繋がれた手にぎゅっと力が入り、彼は口ごもる。
「前から、Aのことが気になってたからだよ」
そして、頬をほんのり赤く染めながら、ぽつりと呟いた。
彼の言う"前"とは、いつのことを指しているのだろう。
「…よく、保健室から顔を覗かせているAが気になってた。
俺たちを見つめては混ざりたそうに微笑んだり、時々泣いてしまいそうな表情を浮かべているAを見かけたり、
そんなAの姿から、目が離せなかった」
彼は、繋がれた左手と反対の手で、頬を掻く。
「あの時はサッカーボールが校舎の方へ飛ばされたから、俺が渋々取りに行った時、何だったら今話しかけに行こうって、思い立ったんだ」
「ふふ、アツヤらしい」
彼の突飛な行動にはよく驚かされる。
「ありがとう、好きになってくれて」
「…こちらこそ」
これからも、よろしくね。
繋がれた手を、私はぎゅっと握り返した。
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Setsuki.(プロフ) - 風丸の話の時に彗星ガールズの歌詞の一部があって感動しました!← (2019年3月28日 21時) (レス) id: 77812d9344 (このIDを非表示/違反報告)
Zero - 彼方さん» 有難うございます(感涙)! (2019年3月17日 10時) (レス) id: fec557507a (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - Zeroさん» リクエストありがとうございます!話数の関係でもしかしたら次の小説に移動しちゃいますがまたその都度更新させていただきますね(*´`) (2019年3月16日 19時) (レス) id: 35021d0064 (このIDを非表示/違反報告)
Zero - リクエストお願いします!!難しいと思いますけど、不動さんって書けますか?無理だったら全然良いです!! (2019年3月16日 15時) (レス) id: fec557507a (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - 妄想乙娘さん» 全て読んでいただけたんですね!(;_;)とても嬉しいです!これからも頑張ります!ありがとうございます(〃´-`〃) (2019年3月12日 21時) (レス) id: 35021d0064 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彼方 | 作成日時:2019年3月4日 8時