よく食べよく眠り5 ページ35
ペンが紙を走る音だけが響いている。
気まずさ半分、気遣い半分で晩餐室を出てきてしまった。子どもと接するのは上手くいかない。
「……」
どうも短気でいけない。相手が誰であれ丁寧に話すことの大切さは教わってきたつもりだったのだが。
あああああ、と呻いてペンを置く。
謝るなら早い方がいい、全員が上に上がってきたら部屋を訪ねよう。
そうだ、どうせ今片付けている書類だってろくに進んでいない。これこそ明日に回して今──
控えめなノックでふと我に返った。アガタか？ 下で何かあったのだろうか。
「どうぞ」
しん、と間があった。アガタなら入ってくるはずだ。不思議に思って席を立つ。
扉に近づく間にもノックの主が入ってくる気配はなく、ノブを引いた先の想定した高さに客人の顔はなかった。
そして少し視線を下ろして、ノックをしたのがシャツの裾をきつく握り込んだオスマンだと気づいた。
「……先程の失言について、謝罪に参りました」
重々しい言葉選びに内心慌てながら膝を折って応える。
「私こそすまない。冷静になるべきだった」
「いいえ、Aのせいではなく、僕が……！」
「子どもを気遣うのは大人の責務だよ。まして君たちは今日、環境が激変したのだから。あれは私が悪い。いい思いはしなかったろう」
「いえ……いいえ、違うんです……」
「オスマン」
唇を歪めて俯くオスマンの手を取る。
「信じられないかもしれないが、私は、結構君たちのことが好きだよ」
「……？」
「……君は今まで学んできたことから最善だと思うことをした。そうだね」
「……はい」
「なら君は悪くない。私のことを何も知らないのだから、君が今までの主人と同じだと思うのも当然だ。でも、私は前の主人とは別人だ」
「……」
「……だから話をしよう。お互いのことを知るために話そう。そうやって、私と君の断絶に橋を架けよう」
生まれの違いは埋められなくとも、そこから何をすべきか考えよう。
「それは、きっと思うほど難しいことじゃない。意志と言葉があれば必ずできる」
私は君たちが好きだよ、と繰り返す。
「好きな人には幸せになってほしいし、幸せにするのは私がいい。ここを家だと思ってくれればもっといい」
細い肩に載った後ろ暗い思い出に、呪われたままではいませんように。
「謝ることはないんだ。私を許さなくてもいい。でもどうか、何もしない自分に価値がないなんて、そんなことを信じないで」
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咲季 - 1000票目頂きました…！面白かったです。続編も読ませていただきました！！ (2022年1月10日 19時) (
レス) @page1 id: 96347ca1af (このIDを非表示/違反報告)
ﾅﾐｦの家のあろさうるす - オークションパロってはじめて見たんですが、とっても素晴らしいです！更新待ってます！マンちゃんがかわいくて尊さに耐えきれず死にそうになりました！ (2020年4月4日 19時) (レス) id: 2e27670cb5 (このIDを非表示/違反報告)
吉野あまみず(プロフ) - bhさん» ありがとうございます！ 続編出来ました！ まだお待ちいただけてるでしょうか……？ 良かったら読んでくださいね！ (2020年3月7日 7時) (レス) id: dec961c083 (このIDを非表示/違反報告)
吉野あまみず(プロフ) - キャラメル中毒者さん» コメントありがとうございます！ 続編投稿致しました！ 楽しんでいただければ幸いです！ (2020年3月7日 7時) (レス) id: dec961c083 (このIDを非表示/違反報告)
bh(プロフ) - 大好きです、気長に更新待ってます、応援してます。 (2019年12月24日 12時) (レス) id: 204dfe46bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：吉野あまみず | 作成日時：2019年8月22日 6時
