Tell me ページ2
「しあわせ…」
わたしが無意識に発していた言葉。
白い壁にフローリング、何も置いていない部屋に響いた。
わたしが持っているものは何も無い。
何もかも全て過去に置いてきた。
家族も友達もなにもかも。
これから人と深く触れ合うことなんてそうそうないだろう。
わたしは今日も人混みを避けて歩く。
誰にも触れないように、触れられないように。
どうか誰にも会いませんように、と心で何度も唱える。
．
．
公共機関を使わないと行けない場所に今日の目的地はあった。
仕方がなく電車を使う。
なるべく人が少ない車両に、と。
でもその電車はどこも混んでいて、
わたしが乗った車両もいわゆる満員電車となってしまった。
わたしは反対側のドアに身体を寄せてじっと耐えた。
降りる駅まであと二駅、この苦しさもあともう少しだと思っていた。
しかし、脚の方から感じる違和感。
そっと下を向くと脚の方からお尻を誰かに触られていた。
痴漢だ。
それがわかった瞬間わたしの身体中が震え、冷や汗がわたしの首筋を通る。
わたしの身体にはったその手は止まることを知らない。
指先で確かめるかのようにわたしのお尻から脚をなぞる。
声を発することも出来ない。
やっと着いたその駅にわたしは飛び出すように降りた。
息は荒く、気持ちが悪いあの指の感触がまだ脚に残っている気がした。
その駅は大きく、利用する人も多い。
人が行き交う中わたしだけ時間が止まっているかのようにずっと頭のなかが回っていてぐるぐるした。
気分が悪くてたまらずその場に座り込んだ。
わたしを助けてくれる人は誰もいない。
肩で浅い息をし、記憶が薄れてゆく中、誰かがわたしに声をかけてくれている気がした。
必死に立ち上がろうとしたとき、立ちくらみが。
．
．
わたしは意識を手放した……
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 55人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すめる | 作成日時：2019年1月18日 23時
