助け ページ13
「はい、A」
名を呼ばれた彼は私に、さも何事もなかったかのように、返事をした。
未だ目を白黒させている私を気遣うような言葉をかけるが、それも私の一方の耳から入って、反対側から抜け出している。
『だって、レギュラス、貴方の…お兄さんを、唯一の肉親を、助けれるチャンスなんですよ…？』
彼は静かにカップをテーブルに戻して、優雅に足を組む。
手を組んで、目線を落とすと睫毛の影ができる。
完全に警戒しているような仕草…何を警戒している…？
「えぇ、そうです。
でも逆に言えば、唯一の肉親だからこそ、僕が手に掛ければあの方の信頼を取り戻せるとは思いませんか？
そうすれば貴女の扱いももう少しマシになるかと。」
ふと自嘲的に笑い、彼はそう言った。
そうか。
…彼は私を警戒しているんじゃないだろうか。
そう言った彼を、叱るであろう私を。
そして、実際にしかる私を。
ーーーーーー
ーパンジー目線ー
湖のそばの芝生に座って日光浴をしていれば息を切らしたAが転がるように座り込んだ。
それはまぁ激しい息の乱し方で何があったのか、そこにいたみんなが疑問に思ったと思う。
私の膝枕で息を整えた彼女はぐっと歯を食いしばったまま横を向いていた。
隣に座るダフネがゆっくりと髪の毛をすいて、反対側に座るミリセントが手を握っていても口を開くことはなくて…
「私達に、言えないこと？」
少し時間が経って落ち着いた彼女にそう問えば、小さく肯いてゆっくりと体を起こした。
Aは私の方を向いて、涙がこぼれ落ちる寸前まで溜まった目をして、ごめん、と口を動かす。
ゆっくりと腕を開いて彼女を抱き寄せるとまるで小さな子供のようにわんわんと泣き出してしまう。
彼女は吸血鬼で、何百年も生きて来て…きっと大人でいることを強いられて来て、感情のコントロールが苦手なんだろうと推測する。
そうじゃなければレギュラスとあんなに煮えきらない関係じゃないはずだもの。
Aには悪いけれど、吸血鬼の性質を知っていながらあんな事、早く告白しなさい、と言ったけど…それ以外にもやっぱり問題はあったんだわ。
一番年上で、普段はしっかりしているけど…
今だけは、子供のように不安定な感情を持つ少女、妹のように思えた。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2019年9月2日 3時
