第三十三訓 ページ34
はらり
『あ…』
視界の端で笠が落ちた
さっきの突きで紐が切れたのだろう、頭にあった筈のそれはなくなっている
あまり時間をかけられない…
ほんの一瞬気を取られていた隙を見逃さず沖田が攻撃を仕掛けてきた
大きく飛び上がり振り下ろされた木刀を地をすりながら受け止める
「ハッ、中々やるなァ」
『まだまだこれから…！』
両者がギラギラとした目で口角を歪めると、再び激しい打ち合いが始まった
____
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「おいおい…総悟が、押されてる…？」
呆然と土方が呟いた
勝負が始まって20分近く経つが決着はまだつかない
「(総悟相手にここまでやり合うか…こんな小娘が)」
始めの方は互角、いや、力では沖田が上であるためAは受けきれない攻撃をいなす動きが多かった
対して沖田はAの攻めをパワーで弾き返しそのまま攻撃に転じている
故に沖田の方が若干有利であるように見えた
″若干″という点で既に驚かざるを得ないが、
20分経った今、土方は信じられない光景を目にしていた
パワーで勝っていた沖田がAの攻めを押し返せなくなってきている
『ﾌｯ、ちょっと疲れがでてきたんじゃない？』
「ﾁｯ…」
「(体力切れ…か？)」
目に見えて疲れ始めた総悟
しかし総悟がここまで疲れるか？20分で…？
俺たちはそんなやわな稽古をしてきた訳じゃない
これくらいでバテる筈が…
それに比べて柊だ
初めから飛ばしていたにもかかわらず、そのスピードは落ちることなくむしろ上がっているようにさえ見える
総悟は力で勝ち、柊は速さで勝っていた勝負が、スピードも力も柊に傾き始めている
気づけば自分を含め野次馬たち全員が食い入るように勝負の行方を見守っていた
「(それにしても…)」
「無駄がない綺麗な動きをするなァ…」
隣りで近藤が呟いた
丁度同じことを考えていた土方も近藤の言葉に頷く
「こりゃ、Aちゃんのこと誤解してたなァ…ここまでとは…立花殿の師匠ってのも本当なんだろう」
「……そうだな」
柊が強いことはよく分かった
しかし、アイツは本当に分かっているのか？ここに居続ける意味を
____″私は剣と共に生き、剣と共に死ぬ″
人斬りの業を背負って生きていくことが、どれだけのものかを…
無邪気に楽しそうに木刀を交わすAと沖田
二人とも年齢は近そうだが、その業を背負い生きていくにはあまりにも若かった
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作者名：あまね | 作成日時：2019年2月4日 23時
