▼ ページ50
避難が少しずつ進んでいく中で、閑散とした廊下に私はいた。対面するのは、先程譜和さんと共にいたコナン君だ。
「Aさん、あのね」
事務所への脅迫状だけでなく、チャリティーコンサートでのあの事故も…絶対音感を持つ私を会場に近づけさせないために彼が行ったことだったらしい。思わぬところで、事件が解決した。
「すまなかったって。」
『.......そう。』
犯行に至った動機は、彼のご子息を事故死させた者への復讐、及び専属ピアノ調律師としての役目を奪った堂本さんへの怨恨だった。
そして私と千秋が感じていた第一の爆破事件におけるグランドピアノの音の狂いは......加齢に伴って音感が狂ってしまった譜和さんの調律のため。譜和さんはその事に無自覚だったようだが、堂本さんと河辺さんは予てから気づいていたらしい。だからこそ、彼はピアニストとしての幕を早々に閉じた。彼の老いを本人に伝えたくない、彼以外のピアノ調律師に頼みたくない…と思ってしまった。新たにオルガン奏者となることで、長年の友の調律師としてのプライドを守ろうとしたのだ。そしてその結果、皮肉な事に、事態は益々悪い方向に進んでしまった。
「ーーAさん。そのバイオリン、少しの間だけ貸して欲しいんだ。」
どうしても、演奏を聴かせたい相手がいるらしい。チャリティーコンサートの事件のことでコナン君の演奏機会を奪ってしまった負い目もあったため、私は自身のバイオリン一式を彼に手渡した。
『このバイオリンは分数じゃないよ?』
「うん、大丈夫。」
すぐ返すね、と言って彼は走り去っていった。彼の姿が見えなくなるのを認めれば、その場にしゃがみこむ。
「A!」
馴染みの声と、駆けぬける足音が廊下に反響した。
「ーーーー具合が悪いのか?」
背後から聞こえた快斗君の声に首を横に振る。コナン君の話を聞いた私はちょっとした自己嫌悪と後悔に陥っていた。どうしてあの時、私は音の狂いをもっと突き詰めていなかったのだろう。あの違和感をもっと深く追及していれば、被害を最小限に抑えることができたんじゃないか、と。けれども、今更嘆いたとしてもその全てが手遅れだった。一度大きく溜息を吐き出すと立ち上がる。
『ーーちょっと気が抜けちゃっただけだよ。快斗君も無事で良かった。』
私達はお互いの顔を見合わせると苦笑し労いあった。
=======
50話超えたので、vol.4に移行します。ここまで読んで頂きありがとうございました。ナツメ
61人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「降谷零」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ