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『−−−へぇ。』
「例え一人の男の嘘で塗り固められた事実だったとしても.....ここまで広く世間に知れ渡ってしまったんだ。最早嘘だろうと何だろうとそれが世の中の真実−−−だと僕は思いますけどね。」
安室さんはそう言うと組んだ指の上に顎を乗せて、流れていく目の前の人々を眺め始める。彼の言葉の意味を考えようと頭の中で反芻しようとした時に、彼はその私の思考を遮るように再び言葉を紡いだ。
「ニコラ・パガニーニに憧れたリスト......それに、幼少期より父親のバイオリンを聴いていたショパン−−−」
どちらもバイオリンに編曲された楽譜があるんじゃないです?と彼は言った。好きな曲をバイオリン曲に限定しなくとも−−−更に言えばクラシック曲に限定しなくても良いと僕は思いますけどね。と安室さんは自身の乗せた顎を手から離すや私を覗き込んできた。なんだったら、ロックでも良いかもしれない、と。秀一さんと言い、安室さんと言い、男の人はロックが好きなのだろうか。そう首を傾げていれば、ふと、気づいた。
『−−−安室さん。』
「−−−はい。」
『近いです。顔。』
あぁ、それは失礼しましたと、彼は近づけてきた顔をすぐに離してくれた。
「−−−憧れの人に、そんなに似ていますか?僕のこの顔。」
君の顔が随分と真っ赤で可愛らしい、と指摘する彼に少しだけ腹が立つ。両手を頬に当てて安室さんを睨みつければ、彼は含みがある笑みを溢した。
『からかわないでください。こんな小娘で遊んでも面白くもないでしょ。』
「……遊ぶ?僕は至って真面目に話してますよ。」
『ーーブロンドの女性。』
私が呟けば、彼は瞳を一瞬だけ丸くする。それから、ニッコリと笑みを作った。
「妬いているのですか?」
『……違います。ただ、不誠実な人が嫌いなだけ。』
「不誠実…」
君に嫌われるのは嫌ですね、と言いながら彼は降参のポーズを小さく取る。
「彼女は僕のクライアント−−−−−つまり、探偵と依頼人の関係。それだけです。」
安心しました?と彼は笑みを浮かべたが、私は溜息をつくとそっぽを向いた。
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