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「Aちゃん!」
ずっと側に控えていた零さんが呼び止める声にも反応することなく、私は病室を飛び出した。
「―――Aちゃん!!」
病室の中庭に出たところで、私は零さんに肩を掴みとられる。と、同時に彼の温もりに包まれていた。
降り注ぐ雨が私と零さんを濡らす中で、冷えた身体はそれでも互いの体温で暖かい。
「―――Aちゃん。」
『――――ッ。』
零さんは静かに自嘲した。
「人殺し、か.......アレは結構効いたよ。」
『............。貴方に言ったんじゃ』
「一緒だよ。結局、君のお母さんを助けてあげられなかったんだからね。」
『...............』
否定をしたいのに、言葉が出てこなかった。
「…君は強い子だ。大丈夫。...大丈夫だよ。」
零さんの言葉と力強く抱き留められる腕に、泣きそうになる。どうして、そんなことを言うの?どうして、貴方は私を抱きしめているの?優しくしてくれるの?それなら…それならさ…
『零さんがずっと私の傍にいてください!』
私は零さんの背中に両腕を回した。もう、言葉をとめられなかった。
『本当は十年前から…傍にいて欲しかった。』
零さんが驚き息を呑む音が直に感じられる。
『……お願い…!』
零さんの腕が私の背中から落ちていく気配がした。温もりが去ったその背中は酷く虚しく感じられる。
「………ごめん……俺は……」
私は、予想していた言葉を聞く前に彼から離れた。零さんに背中を向けてゴシゴシと瞼を拭う。彼を、困らせたいわけじゃなかった。
『……冗談ですよ。あんなことになって、誰かに甘えてみたくなっただけ。もう私のことは構わず、業務に戻って下さい。患者さん、待ってるんじゃないですか?』
「Aちゃ…」
『良いから行って!!今日くらい、我儘を言っても良いでしょ?』
私はクルリと身体を振り向かせると零さんを見上げた。
『大丈夫。"私は"強いんでしょ?お願いだから、少しだけ、一人にさせて欲しい。』
私はそれだけ言うと、呆然としている零さんを置いて病院を後にした。
――夏の匂いが微かにする。
次の季節がもう目の前まで来ているはずなのに、私の記憶はそこで閉じられた。
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