見覚えのない写真 ページ21
ーーーあの事件の後は目まぐるしく時が流れて、あっという間に約束の日曜日がやってきた。前日のレコーディングの高揚感と僅かな疲労感を感じながらも、約束の場所へと向かう。そこは米花町の中でもメジャーなホテルで、よく結婚式などにも使われているところだ。予め伝えられていた一室へと足を運びドアをノックする。久しぶりの彼の顔が出てくるや部屋の中へと促された。
ガチャリと鍵が自動で閉まる音を背後で聴きながら彼を見上げる。先程まで吸っていたのだろうタバコの匂いが微かに香った。
『ーーーお久ぶりです、秀一さん!』
部屋にバイオリンのケースを置くと抱きつく。彼の鍛えられた腹筋は硬く心強さを感じさせる。彼は一瞬呼吸を止めたようだが、すぐにくつくつと笑い出した。
「あぁ、久しぶりだな。元気そうで何よりだ。」
促されて二人掛けのソファーに腰を下ろすや、彼はテーブルを挟んだ向かい側のソファーに座ろうとしていたため、慌てて彼の手を引いて隣に座らせた。
「ーーー」
『ーーーごめんなさい、暫く傍にいてもらっても良い?』
「.......大丈夫か?」
『ーーーうん。』
彼の膝上にある右手に両手を添えると右肩辺りに額をグリグリと押しつける。腹筋と同じく硬い其処に擦り付けるのはやはり痛いけれど、その温もりを堪能したかった。
「−−−−。」
彼は私が落ち着くまで何も言わずに、されるがままでいてくれた。そのことが何よりも嬉しかった。
『ーーーありがとう、秀一さん。』
ようやく彼を解放することができた私は、身体を離して見上げる。私を見下ろす彼は無表情ながらも、どこか気遣わしげだった。
「何かあったのか?」
彼の言葉に頷く。昨日のレコーディングは思った以上にうまくいったことを話し終えると、内容はあの図書館での爆弾事件へと移らせた。
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