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『そうですね…。それじゃあ、おやすみなさい。』
〈あぁ、おやすみ。〉
そして、電話は切られる。無機質な通話音を振り払って受話器を元に戻すと、急いでドアを開けた。案の定、叔母が立っている。その隣には文和さんもいた。
「寝てたの?」
『ちょっと疲れちゃって仮眠をしてました。―――もしかしてCDの?』
「そう!今話し合ったんだけどね、やっぱり―――」
『分かりました。CD録音の仕事、引き受けます。』
「「!!」」
『……その代わり土曜日にして貰えますか?日曜は練習をしたいので。』
文和さんに向かって言うと、彼は「連絡しておきます」と了承してくれた。
――…
コンサートも無事に終わった次の日。授業の後に家に帰るのが億劫だった私は、校内の音楽室でバイオリンの自主練をしたあと、帰り道に杯戸中央図書館に来ていた。一階二階は共に立体駐車場になっていて、三階以上が図書館・学習室フロアとなっている。私の場合、一度受験は終えていたため、高一までの内容はある程度理解していたが少しでも暇ができるとここで勉強しているのだ。
『……喉が渇いた。』
二時間ぶっ続けで一心不乱にシャープペンを動かしていたせいか、腕が痛い。机に散乱している物品をまとめて財布と一応盗難防止のためにバイオリンを持つと、自動販売機の所に向かった。
自動販売機がある廊下は殆ど人影がない。私はある程度の目星をつけて、小銭を取り出そうとした――その時。
「A、何してるの?」
『っ!?』
突然声をかけられて、思わず心臓が止まりそうになった。振り返ると、同じ制服を着た、長身で切れ長の瞳を持つ女の子、青柳千秋がいた。私と同様、バイオリンのハードケースを持っている。
彼女は、同じ中三の女の子でバイオリニストだ。天才少女というわけではないがコンクールに入選するくらいの腕前を持っている。私と同門だった。
貴重な友人でもある。サバサバしていて、妙なライバル意識など持っていないので、付き合いが楽だった。
『なんだ、千秋か…脅かさないでよ。』
「別に脅かしたつもりはないんだけど。あれ?あの美形マネージャーは?」
『彼といつも一緒ってわけじゃないよ。……で、千秋こそこんなところでどうしたの?レッスンは?』
「……今日は休み。」
『なんで?』
「――――あたし、バイオリンやめようと思って。」
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