開演の狼煙 ページ14
エレベーターで五階に上がる。五階建てだから、最上階だ。自分のワンルームの部屋の鍵をあけようとしていると、中で電話の鳴る音が聞こえてきた。
急いで中へ入り、バイオリンケースをベッドに寝かせて、電話へと飛びついた。
『もしもし!』
受話器を取って、意気込んで言う。
〈やけに元気だな。〉
電話の相手はコンクールのため数ヶ月前に渡米した際に、通り魔に襲われそうになったところを助けてくれた人だった。それから米国で何度か顔を合わせると、こうやって連絡を取り合う仲となり、この日も丁度電話をくれることになっていた。
『お久しぶりです。もしかしたら切れちゃうかと思って。あ、それと……コンサート無事に終わりました。』
〈そうか。〉
『……、はい。それで、今回は?』
〈実は観光も兼ねてな.....来週から行くことになった。〉
『観光?行くってもしかして.....こっちに?』
〈……あぁ、その間に君と会って話したいことがあるんだが。〉
『……ちょっと待ってね。』
スケジュール帳で空いてる日にちを確認し二週間後の土日の空きを見つけた。そこで、はたと気づく。レコーディングをもしするのなら、おそらくこの日辺りになるだろうから.......。日曜の午後だと確実か...。そう考えて結論づけると、彼に日時を伝えた。
〈了解。場所は追って連絡する。〉
『それじゃあ、来週の金曜の夜に自宅に連絡を貰えますか?』
〈あぁ、そうしよう。ちなみに君は携帯を持つ気はないのか?〉
『うーん......あったほうが便利だとは思うんだけど、叔母があまり良い顔をしなくて。』
〈そうか−−−−。〉
そう言うと彼は何やら考えこんでいる。それを問う間も無くもう片方で部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「――A、もう寝たの?」
叔母の声だ。
〈A?〉
『……ごめんなさい、叔母に呼ばれちゃった。』
〈そうか。金曜に連絡する。〉
『……はい。』
〈そんな顔をするな。またすぐ会えるさ。〉
フッと笑われ苦笑をこぼす。顔は見えないはずだけれど、彼にはお見通しらしい。
151人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「降谷零」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ