ペーパームーン 3 (ページ37)

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○

「Aにこれあげる」

『あ、カイロならわたしも持って…』

「好きでしょ、このジュース」

『……あ、うん、ありがとう』

「最近濃いアメリカーノばっかり飲んでるから心配だったんだよ」

Aもジェミンと同じの飲むの？と椅子を引いて、わたしの隣にマークが座る。単純だけど、誰かが隣にいるだけで、少しずつ呼吸も上手く出来るようになった。オレンジジュースを流し込んで、バレないように息を吐く。全然バレていたけれど。

「緊張してるの？」

『マークが思ってる100倍くらい』

「俺はすごく…うん、すごく楽しみ」

『そうだったの？』

「だって俺知ってるもん、どれだけAが頑張ってきたか」

『…マークだって同じでしょう』

どこ見ればいいんだろう。マークがテーブルに置いた、紙袋の英語ばかりを無駄に読んで、返事が出来ない。外が段々と騒がしくなって、そろそろ移動しないといけない。だけど、ここから立てる気がしない。

「大丈夫、信じてよ俺のこと」

『…そうかなあ』

「じゃあね、ちょっと考えて」

『なに？』

「絶対無いけど、こんなこと起こらないけど、大丈夫だけど、」

『わかった、起こらないけど？』

「もし、もしAが出来なかったら、俺がそこまで行って、Aを抱えて連れて帰ってくる」

『それは…ちょっと嫌だ』

「でしょ？ほら、ちょっと落ち着いたじゃん」

ヒョンたちのところ行こうよと、マークがわたしの指に触れる。わたしを抱えてるマークを想像したら、なんだか面白くなってきた。足に力を入れて、ピンヒールが音を立てる。背高くない？と言うマークに、少しだけ笑えるくらいに、元気になった。

「その丈、それで本当に合ってる？」

『合ってるし、何ならここは布が無い』

「わ、え、」

『…ごめんちょっと意地悪した』

「全然元気じゃん！早く行こ！」

ジャケットを持って、もう一度手が触れる。やっぱり静かに1人でいるよりも、騒がしい空間の方が、なんだか自分に合っている。それはここに入ったせいなのか、もう慣れてしまったのかわからないけれど、まだ、ずっとそこにいたいなんて思いながら、廊下を歩く。少しだけ高くなった背が、自分の視野まで広げたみたいだ。