バター色のワンピース ページ31
○TAEYONG
珍しくAから来た、お部屋借りても大丈夫ですかというメッセージにスタンプを押した後何故か気になって、練習が始まるよりも大分早い時間に会社に着いてしまった。作業室の扉をなるべく静かに開けて、机に突っ伏して眠るAにカーディガンをかける。
持ったままのペンをそっと抜いて、流れ続けている音楽を停止する。Aが、ステージでやる曲だ。
『ごめん、起こしちゃった？』
「ううん、大丈夫です」
『まだ時間あるから、ソファーで寝たら？』
「オッパも、」
『ん？』
「オッパも来てください」
まだあんまり目が開いていないAと目が合って、いつの間にかソファーまで手を引かれている。座った2人の間に距離は無くて、ぎゅっと手を組んで縮こまったまま、Aが目を閉じる。短かった髪は伸びて、また長くするとこの前話していたけれど、この長さ楽なんだけどなと溢していたことには、上手く返事が出来なかった。
『このままでも綺麗なのに』
「…髪のことですか？」
『長くするんでしょ？』
「元々切る時に約束してたんですよ。冬になったら長くするって」
『そうだったの？』
「しかもね、初めての色にするんだって、ブロンド？みたいな」
『わ、本当に？』
「オッパにしか言ってないから、まだ秘密ですよ」
くすくすと笑って、この髪とさよならの記念と言ってカメラを起動する。にこりと口角を上げたAの横に、なんとも言えない顔をした自分が映っていた。なんとかピースをしてから、カメラの音が部屋に響いた。
「今度は何回色抜くかなあ」
『…痛い？』
「うーん、もう慣れました」
携帯を見ているAの、髪に触れる。俺たちとは違う、柔らかくて、細くて、繊細で、本当はそんな傷みに慣れてなんて欲しくない。お揃いですねと言われたピンクの髪の時から、いつまでその痛みは続くんだろう。
『A、あのね』
「うん？」
『痛い時はちゃんと痛いって言うんだよ』
「それは、何のとき？」
『いつでも、何があっても』
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作者名：yom | 作成日時：2021年10月3日 16時
