おねえちゃんだから. (ページ26)

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#26 ページ26

船内は静かだった

ただ静寂だけが広がる

その沈黙は破ったのは私から

「……知ってるんですよ。ベックマンさん、お酒も飲みたいけれど綺麗な女の人とお話したいのも」

「ははっ…随分と意地悪な事を言うな。ララ」

“意地悪”

そう。なのかもしれない

普段はウタにかかりっきりで私の事は後に回す彼らに

お返しのつもりかな

自分でも分からない。でも思ったことを口にしたまで

別に今更優しくされたい訳では無い

ただ。こういう時ばかり“親面”をして『何とかしてあげたい』って思われるのは

都合が良いものだな、と

皮肉を口にしたいだけなのかもしれない

「けどお生憎。間に合ってるから構わねえよ」

「……?」

間に合ってる…?

「今俺の目の前には何よりも可愛い娘がいるんだ。これ以上のものはねえだろ?」

「………ふぅん」

なにそれ。意味が分からない

でも。なんでかな

凍っている私の心(なか)にチロリと火が触れた気がした

マッチで付けたような小さな火。小さい小さいそれが私の中で静かに揺れた

「……いつもありがとうな。ララ」

そう言うとベックマンさんは私の頭を優しく撫でた

「……………何が?」

「ウタの事だ。アイツはあんな性格だろう。俺やお頭は毎度手を焼いてばかりで音を上げる。けれどお前は」

＿＿＿＿いつも1人でアイツを見てくれている

“ひとり”という言葉がすとんと自分の中で落ちた

そうね。ええ。そうよ

私はいつもひとりなのよ。今更知った?

彼らが口にする名前は常に『ウタ』

一言目にはウタ、二言目にもウタ

“ウタ、ウタ、ウタ”

可愛い可愛いウタが大事だものね。小さくて可愛い

声も美しくて見た目も可愛くて

その偶像を守るために私はいつも傍にいるようなもの

だって仕方ないじゃない。“姉”という立場以外に私の居場所なんてない

「……“おねえちゃん”だもの。それぐらい当然だよ」

氷は溶けることを知らず。ただ優しく微笑んだ

「…そうだな。けどなララ」

ベックマンさんは私の瞳をじっと見つめる

「俺たちを頼れ。“強くなくていい”。お前も俺達にとってかけがえのない大切な“娘”なんだ」

「……………………」

“強くなくていい”

なに。それ

そんなこと今まで言わなかったじゃない

なんで今なの。今なの?

マッチで付けられた火は。消えかけていたはずなのに

また再び、ゆっくりと灯されたような気がした