おねえちゃんだから. (ページ14)

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#14 ページ14

髪留めの件以降、私はウタに全てを優先した

食べたいデザートも、欲しいアクセサリーも、読みたい絵本も

ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ＿＿＿

ウタに欲しいものを先にあげた

「ウタ、これはいらないの?」

「ウタ、これ食べる?」

「ウタ、この本、読んであげようか?」

『ウタ、ウタ、ウタ、ウタ、ウタ』

我ながら上手く出来てるなと思う
こんなに優しいお姉ちゃん、他にいるのかな

私はみんなに迷惑がかからないように。安心して貰えるように

優しいお姉ちゃんに演(な)る

その裏で黒い汚泥が、雨のように降りしきった

だけど。別にそんな事、気にすることじゃない

ウタが大きくなるまでの辛抱。私が我慢すればいいの

そう。ただそれだけのことだから

でも。あの“瞬間”を見た時に、私の心は大きく音を立てて崩れた

どこかの島から持ってきたのか、奪ってきたのかは分からない

ウタが“ウタウタの実”という悪魔の実を口にしたらしい

それまでは別に気にしてなかった。そう

“気にしていなかったの”

「ウタの歌を聴かせてあげる！」

チクチクしていた心が。胸が。痛みが

突如、ズキリと痛くなった

「お！歌姫のステージか！」

「いいねぇ！聴かせてくれ！」

やめて

「ふふーん！よーく耳をすませて聞くのよ！」

やめて

「よーし！お前ら！うちの歌姫の歌を聞きながら…」

やめて

「宴だーー！！！」

ああ

ああ。ああ。ああ。ああ。ああ

ああっ…!!

どうして。どうしてなの

何もかもを貴方にあげた

洋服も、絵本も、デザートも、ぬいぐるみも、おもちゃも

ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ

欲しいものはぜんぶ、貴方に譲ったのに

なんでなの

どうして?

どうして。私の居場所(うた)まで奪うの？

神様は不公平だ

平等にしてくれない

1人に与えたのなら、もう1人にだって同じぐらいに与えてくれてもいいじゃないか

幸せを得る権利だってある

居場所を持つ権利だってある

なのに。なぜなのですか?

ウタの初ステージは私の気持ちとは裏腹に憎たらしいくらいの快晴、太陽はキラキラと輝くあの子を照らしていた

ズキリズキリと。私の心はこんなにも痛いのに

「なにが…いけないのかな……」