シルエット

祭りの夜 １ ページ13

緑side


夏休みに入った。


俺はますます退屈で、

お父さんとお母さんは、
相変わらず、喧嘩ばっかりしてる。


はっきり聞いたわけちゃうけど、
なんとなく、俺、知ってるねん。


宝塚におる時、お父さんが、
会社の女の人と浮気してたらしいって。

その人が偉いさんの娘さんとやらで。

そんで、関連会社に出向なって、
こんな辺鄙な田舎町に飛ばされることになってん。


宝塚のマンション持ち家やし、
お母さんと俺はついてくる必要なんかなかったのに。

お母さん、
またお父さんが浮気しいひんか、
気が気やなかったんやと思う。


ストレスのせいなんか、
あんまし体調も良うなくて、
いつも顔色悪いし。

お母さんを放っておけずに、
俺もここに付いて来てんけど・・・



夕方、珍しいお父さんがはよ帰って来たのに。

また二人は、罵り合いの喧嘩始めた。


この辺りじゃ一番近いしげんちでさえ、
１０分先やし、近所の人に聞かれることもないもんな。


「いつまで嫌味言ってるねん。
しつこいわ！」


お父さんがお母さん怒鳴るの聞いて、
耳を塞ぐ。

今の俺には、
居場所なんかどこにもない。


家を飛び出して、海まで走る。


途中で部活帰りのしげにぶつかったけど、
話せる心境やなかったし、

無視してもうた。


砂浜まで来て。

寝転がって、日暮れてきた空を見上げる。


「帰りたいな・・・」
　

知らず知らずのうちに、
涙が溢れてくる。


帰りたいのは、宝塚にってことやなくて。

そう、俺は、なんの悩み事もなかった過去に帰りたい。


ずっと続けてたダンスも、やめてしまった。

ダンス部のみんな、何してるかな。


明日、流星に聞いてみよ。


流星、ほんまに会いに来てくれるんかな。


だんだん、電話の回数も減って来た。
　
そら、忘れてくよな。


離れたヤツのことなんて。


大阪か神戸の大学戻って、
またやり直せばええ。

それまでの我慢や。


何度も自分に言い聞かす。


ふと、しげの笑顔が浮かんだ。


しげは、何の疑問もなく、

卒業した後は、
村役場に勤めるって言うてたな。


夢とかないんかな。


なら、あいつ、
なんのためにあんなに勉強してんねやろ。

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