【小説版】悲劇のブラックスワン (ページ32)

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それぞれの想いページ32

「……あ、メールじゃん」
「何だ?」
　最斗と竜真はそれぞれ携帯を取り出し、メールを見る。
　――それは、依頼だった。

　決行日は来週の日曜日。そう、ゲーム大会の当日だ。
　暗殺対象は西ノ瀬瑠華と、チーム斗六の全員、それに赤木義人、川原木寛。
　――そして同じメールは、他のメンバーのもとにも送られていた。

　その日の放課後。
　次のゲーム大会に出場するメンバーは、いつものゲームセンターに集っていた。ゲームの練習だ。
「そこ叩くのはコツがあるんだよ」
「コツ? なんですか? ご教授願います」
　ゲーム筐体の前で太鼓を叩いているのは翼禍とヒロキだ。
　イーグルスのメンバーは、先日の一件でブラックスワンの面々に尊敬の念を向けているようだ。
　そんな二人を取り巻くメンバーの感情は、それぞれに違う。
　ゲーム大会を純粋に楽しみにする者、優勝を目指し腕を磨こうとする者、優勝できたら皆で焼肉にでも行こうと企む者――依頼を前に憎しみを募らせるもの。
　そんな中――不意に、麻音の携帯が鳴った。
「……あ、ごめん、ちょっと用事。僕、先に帰るね」
「あ、おう! じゃーな!」

「ごめん、遅くなって」
「ううん」
　公園のベンチで麻音を待っていたのは、桜花だった。その手の中には、巨大な花束がある。
「……行こうか」
「そう、だね」
　二人は夕暮れの道を歩き出す。
　――向かった先は、街のはずれの霊園だった。
　二人は立ち並ぶ墓石の一つに近づくと、無言で花を手向ける。
　――泡沫友奈。
　かつての桜花の親友であり、麻音の恋人。
　その日は、彼女の命日であった。
　二人は無言で手を合わせる。
　不意に、桜花が呟いた。
「……友奈は、私たちの今のこと、知ってるのかな」
「……どうだろうね」
　静かに麻音が答える。
　彼女の死は、二人の人生に暗く影を落としている。
　不意に、桜花が崩れ落ちた。
「……解らない……もう何も解らない……殺すことしか……考えられない……辛いよ……」
　呟きながら瞳を擦る彼女に、麻音は語りかける。
「……大丈夫、って……あの子なら、言うだろうね」

　一方、天川隼人が店長を勤める喫茶店では。
「……川原木寛、か」
　冷たい声が呟く。
　彼は、その名を知っていた。
　何故なら――彼の家族を昏睡状態にした、張本人だから。
　だが、今、川原木寛が属する暗殺グループが解散し、散り散りにになっていることを、まだ彼は知らない。

　様々な思いの中で、日曜日はやってくる。