氷柱 ページ15
しのぶさんと別れて足を運んだのは、お館様の屋敷だった。
今日、私はここでお館様から柱に任命される。
本来ならば柱合会議で正式に任命するそうだが、今回は柱が2人不在ということで切羽詰まっているらしい。
鎹烏を通じてお館様から直々に、産屋敷邸へ足を運ぶようにと指令を受けた。
迎えてくれたのは、お館様の奥方、あまね様だった。
「お待ちしておりました。水守A様。」
通されたのは、寝所だった。
「よく来たね。」
いつも通りの、穏やかな声だった。
いつもと違うのは、お館様が床に伏せっていること。
物凄い痛みの音が聞こえて、思わず視線を下ろしてしまう。
痛みの音が、大きくなる。
見ると、お館様はあまね様の肩を借りながら体を起こしていた。
「お館様、横になってください、そのままで結構ですから。」
「いいんだ。大切な話だからね。」
お館様は、いつものように微笑んでいる。
「水守A、君を鬼殺隊、氷柱とする。柱として鬼殺隊を支え、これからも人の命を守るように。」
凛とした声だった。
御意、と頭を下げてお館様の言葉を受け入れる。
私の言葉を聞くと、少しだけお館様の表情が和らいだ。
痛みの音に混ざって、優しい音が聞こえる。
「義勇も、Aも、本当に優しい子だ。私は、君と義勇が穏やかに笑い合う日が来ることを心から願っているよ。」
まるで夢見るように、お館様は笑った。
私よりも、お館様の方がずっと優しいと、私は思う。
どうして、それだけの痛みを抱えながら、他人のことを思って微笑むのか。
いつもそうだ。
私の周りは、優しい人から居なくなっていく。
私の冨岡さんへの想いも、お館様はきっとお見通しなのだろう。
本当に不思議な人だ。
「義勇のことを、頼んだよ。」
最後に、優しい眼差しを私に向けながら、お館様は私の手に自分の手を重ねた。
冷たい手だった。
あぁ、この人はもうすぐ死んでしまうのだと、その時に何となく理解した。
涙が零れる。
どうして、優しい人ばかり死んでしまうのだろう。
そう思うとなかなか涙は止まってくれなかった。
「本当に、Aは優しい子だね。」
お館様は少しだけ嬉しそうな音を鳴らして、宥めるように私の頭を撫でた。
お館様の姿を見たのは、これが最後だった。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時