想う ページ13
俺は怒っていた。Aに対してだ。
遊郭に上弦が出たと報告があり、真っ先に駆け付けたのがAだと聞いた。
煉獄が死んだばかりだというのに、どうして自分から戦火に飛び込んだ。
死なないでほしいという俺の言葉は、彼女には届いていなかったのかと怒りが沸いた。
次の日、宇髄がAの手を引いて俺の屋敷へやってきた。
宇髄に引かれたAの左腕には、包帯が巻かれていた。
「手を放せ」
自分でもわかるほど刺々しい声が自分の口から零れた。
「Aを柱に推薦する。」
お館様も、宇髄も、どうしてAを前線に出そうとする。
これまでも二度死にかけているのに、まだ苦しめというのか。
「死にかけたことより生きて帰ってきたことを褒めるべきじゃねぇのか」
わかっている。それでも傷ついてほしくはなかった。
「Aは、お前と肩を並べて戦えるって」
意味が分からない。
俺と肩を並べたからなんだというのか。
お前まで死んだらどうする。まだ十六だろう。
「お前、そうやってずっとAの想い無視して何になるんだよ。コイツだってお前が死ぬのが怖くて仕方ないんだぞ。分かってんのか?」
うるさい。
その場を立ち去ろうとすると、後ろから声が聞こえた。
今、一番聞きたくない声だった。
「冨岡さん」
うるさい。
掴まれた袖を振り払うと、Aは何も言わなくなった。
今度は体に手を回された。
Aは震える声で、話を聞いてくださいと俺に訴えた。
急速に頭が冷えていく。
俺が今していることは、まるで子どもの癇癪だ。
「話をさせてくれないか。」
Aの気持ちを理解したい。
自分の意思で、生きることを選んで欲しいと思った。
「冨岡さんも、私も、『あの時自分が死んでいれば』って気持ちが消えないんですよね。」
泣きそうな笑顔を浮かべて、彼女はそう言った。
「私、冨岡さんのことが自分の命よりも大切なんです。」
あぁ、俺たちは同じだ。
お前も、生きている事への罪悪感にもがき苦しみ、それでも生きていてくれたのか。
Aが生きているという当たり前のことが、奇跡のように尊い事なのだと唐突に理解した。
細い体を抱きしめる。
Aの心音が、ひどく心地よかった。
「一緒に生きましょうね」
Aは穏やかな声で俺に話しかける。
その声に応えて、抱きしめる手にもう一度力を込めた。
生きていてほしい。
一秒でも長く、Aに生きていてほしい。
そう思わずにはいられなかった。
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時