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どうして ページ11

いつもの冨岡さんの音ではなかった。

冨岡さんは、怒った音と、じりじりと焦げ付くような音をさせながら、私から遠ざかっていく。

離れていく背中を、必死に追いかける。

「冨岡さん、さっきの、俺が死んだ後ってどういう意味ですか」

冨岡さんは振り向いてくれない。

「あの、冨岡さん」

振り向いてくれない。

どんどん離れていく背中を追いかけているうちに悲しくなってきて、目には涙が浮かんでいた。

冨岡さんの綺麗な羽織が滲んでいく。

「冨岡さん」

名前を呼ぶ。振り向かずに冨岡さんは離れていく。

手を伸ばして、やっとの思いで冨岡さんの右の袖を掴んだ。

「冨岡さん、話を」

口を開くと、羽織を掴んでいた手を振り払われた。

冨岡さんに手を振り払われた瞬間、突き刺さるような傷みが胸を襲った。

キリキリと胸が痛んで、涙が溢れた。

私の様子に気づくことも無く、冨岡さんは歩みを進める。

振り向いてくれない。遠くに行ってしまう。

嫌われたのだろうか。

冨岡さん、話がしたいんです。こっち向いてください。

そう言葉にしようとするが、怖くて声が出ない。

先程手を振り払われたせいで、冨岡さんに拒絶される恐怖でいっぱいだった。

心の中でいくら訴えても、冨岡さんには届かない。


冨岡さんの背中が離れていく。

嫌だ、嫌だ。嫌われたくない。

私は駆け出して、冨岡さんの体に手を回していた。

冨岡さんの背に顔をうずめながら、やっとのことで口を開く。

「冨岡さん、話を聞いてください。」

怖い。冨岡さんに嫌われるのが怖い。私の声は、か細く震えていた。

冨岡さんの足が止まる。

前に回していた私の手の甲に、熱を感じた。

冨岡さんの手だ。

「……すまない」

冨岡さんの手が、私の手を包む。

そのまま、優しく回していた手をほどいて、冨岡さんはこちらを向いた。

振り向いた冨岡さんは、痛みに耐えているような、見たことのない表情をしていた。


冨岡さんとずっと一緒にいたのに、知らない事ばかりだ。

こんな音をさせるのも。

どうして怒っているのかも。

何一つわからない。

やっと振り向いてくれた冨岡さんを見て、ぼろぼろと涙が零れる。


「私、何か気に障ることをしてしまったんですか」

「違う。これは…」

何か言いかけるが、冨岡さんはまたすまない、と私に謝った。


「話を、させてくれないか。」

冨岡さんは私の目をじっと見つめて、そう言った。

怒った音と焦げたような音は、もう聞こえなくなっていた。

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設定タグ:鬼滅の刃 , 冨岡義勇   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:kanna | 作成日時:2019年10月22日 12時

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