丗壱 ページ33
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『う、ッと、その』
手元に有る文字の羅列が並んだ推理物の小説とにこやかに笑んでいる司書である彼を交互に見遣る。
『なんで此処にいるのかなぁ、と思い、まして』
「んー?其れは随分と非道い云われ様だ。此処は俺の仕事場だからね。むしろ居ないと駄目なンだけどね」
『ひッ、否、あの、そう云う訳では無くて!なんで私の処にいるのかな、と。司書さんって本とか並べたり受付したりするンじゃないンですか?』
「あはは!そう云う事か!」
「いやァ、此処にいるなッて云われたのは初めてだったから吃驚しちゃッたよ」
彼の表情からは、本当に勘違いしたのか気付いていたのかは読み取る事は出来ない。
数分後、大分落ち着いたのか少しだけ笑い声が小さくなってやがて真面目な顔つきに変わった。
「うーん。いやァ、実を云うとね、活字離れッて云う奴かなァ。最近は図書館に来る人が大分減って来たンだよ」
彼の其の言葉を訊き、周りをぐるりと見渡してみる。
全く人がいないと云う訳では無いが、私の記憶に有る風景の中とは大分変わって仕舞った気はする。
「暇になるのは嬉しいけど、矢っ張り寂しいもンだね。だから嬉しいよ。こうやって来て呉れて」
『あは、は。慥かに私、利用客
「うーん。其れも有るンだけどね。一寸違うんだよね」
其れはどう云う事だろうか。
若しかして毎日の様に来ているから迷惑とかだろうか。
「ん?おッと、今若しかして迷惑かけてるンじゃないかと思っただろう?」
『えッ、嘘!声に出してました?』
「矢っ張り当たってたみたいだね。まァ長い付き合いだからね、判るさ」
咄嗟に口を抑える私は、くつくつと喉を鳴らして笑う彼の言葉に顔を緩ませる。
「あ、嘘かもしれない。判りやすいからだッたかも」
『え、判りやすい?』
「ふふッ。其れも嘘かもしれないよ」
『え、え?もう、判ンない、です』
自然と目が合い、笑い合う。
彼が素敵な人で、楽しい人なのは、昔と変わらないみたいだ。
「多分、特別なンだろうね。こうやって顔を覚えている利用客なんて一人だけだし」
『わ、私も!司書さんが、勿論図書館だって特別で、大好きです…!』
そう告げたら、目の前の彼は目を見開き嬉しそうに顔を綻ばせた。
「いやァ。照れるね、こんな熱烈な告白を受けるなンて」
そうやって冗談めかして云う彼は屹度、人を楽しませる才能が有って、私と正反対なんだと場違いな事を思った。
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黒蜜おもち - 終わり!?おっおわ……続き、ください。。。 (3月28日 12時) (レス) @page38 id: b91ecec67d (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - 続きをお恵みください… (12月30日 21時) (レス) @page38 id: 5d2aa23f76 (このIDを非表示/違反報告)
山羊のサーカス(プロフ) - 終わり...だと...!?再度更新を願っております...! (11月25日 18時) (レス) @page38 id: 78c8c266f2 (このIDを非表示/違反報告)
かぐや - 終わっちゃった…更新して欲しいです!!お願いします… (9月8日 21時) (レス) @page38 id: 65c95105c4 (このIDを非表示/違反報告)
rai - お、終わり⁉︎是非更新をしてくれることを願って (8月19日 22時) (レス) @page38 id: 67327e3dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふにゃた | 作成日時:2018年2月18日 19時