拾玖 ページ21
*
心臓が厭な音を立てる。
まるで全力疾走をした後の様に疾く、其の大きな音は私の中で否に大きく響いた。
喉元を言葉にならない声が呼吸と共に音を立て乍ら通った気がした。
大丈夫、大丈夫。
何時もの只の、気紛れでしか無いだろう。
彼の事を知っている訳が無いのだから。
彼の時の事はそっと心の中に閉じ込めておくと決めたのだ。彼の時に。
そう思って一つ、小さく深呼吸をしてから其方を睨む様に見遣り、堂々と嘘を吐く。
そうでもしないと思わず涙が零れて仕舞いそうだったから。
『べべべ別にと、と特に深い意味はありませェんん』
前言撤回したい。
判り易い、物凄く。
之は私だけで無く、屹度此処にいる誰もが思った事だろう。
目を泳がせ乍ら行き場の無い手が空中を彷徨う。
私は驚く程嘘をつくのが苦手なのだ。
「ふぅん…？」
『あ、だ、太宰さんが！』
『太宰さんが包帯を付けているのが格好良くて、其れで、えェ、と、だから』
其れなのにも関わらず何故か嘘を重ねる。
包帯が格好良い、だなんて口から出任せが過ぎるだろう。
けれど、追い詰められた私には其れしか思い付かない。
然し、其の台詞を訊いた瞬間、太宰さんは疑いの色を滲ませていた綺麗な鳶色の瞳をまるで星屑を散らばせる様に輝かせた。
「本当かい!?矢っ張りそうだよねぇ。と云う事は真似をして呉れていたのかい？」
『へ、ェ…？』
興奮して
其の綺麗な瞳に魅入られていた私は、太宰さんの言葉を理解出来ずに首を傾げる。
だが、其れも束の間。
思った依りも近い其の距離に顔を赤らめる。
『否、あの、』
思わず後ずさり乍ら如何言葉を繋げるべきなのか思案する。
けれど貧相な私の頭では思い付く筈も無く。
何時の間にか両手を包み込まれていて、私に合わせる様に太宰さんも後ろに下がっていた。
加えて期待に満ちた目で此方を見詰めている。
此処で云う事は一つしかないだろう。
『そう、です。太宰さん、みたいになりたくて』
何て。思ってもいない事を付け足す。
否、価値観は人其々なのだから否定をする気は無い。が、肯定する訳でも無い。
「…ねぇ！国木田くん、訊いた？私みたいになりたいって。いやぁ、照れるねぇ」
何故か固まった儘動かなくなって仕舞った国木田さん、序に云うと他の皆様も一斉に動きを止めていた。
心の底から喜んでいる太宰さんを見て罪悪感と、有る筈の無い痛みが胸に広がった。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1687人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒蜜おもち - 終わり！？おっおわ……続き、ください。。。 (3月28日 12時) (
レス) @page38 id: b91ecec67d (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - 続きをお恵みください… (12月30日 21時) (レス) @page38 id: 5d2aa23f76 (このIDを非表示/違反報告)
山羊のサーカス(プロフ) - 終わり...だと...!?再度更新を願っております...! (11月25日 18時) (レス) @page38 id: 78c8c266f2 (このIDを非表示/違反報告)
かぐや - 終わっちゃった…更新して欲しいです！！お願いします… (9月8日 21時) (レス) @page38 id: 65c95105c4 (このIDを非表示/違反報告)
rai - お、終わり⁉︎是非更新をしてくれることを願って (8月19日 22時) (レス) @page38 id: 67327e3dd8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ふにゃた | 作成日時：2018年2月18日 19時
