月の影取る猿【めぐまい】 (ページ8)

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扉を開けたのは虎杖だった。

変に密着している俺達を見て、まずいもの見たという表情を浮かべた。否、虎杖だけではなく、この場に居る全員が居心地の悪い顔をしただろう。

虎杖が改めようと扉を閉め始めた時、真依さんは立ち上がった。そして口に手を当てて、虎杖の横を走り去っていく。

俺は何をするわけでもなく、じっとその後ろ姿を見ていた。

さっきの出来事の全てが夢のようで、足が一歩も動かない。頭では追いかけるべきだと警報を鳴らしているのに、如何せん体が言うことを聞かない。聞かないならば仕方ない。

俺は虎杖を見て「悪い」とひと言謝った。

「こっちこそごめん……。もうみんな帰り始めたから呼びに来たんだけど……」

「もうそんな時間か」

真依さんに夢中で、時間のことなどすっかり忘れていた。

この部屋だけが時の経過を無視しているように感じられたが、そんなわけあるはずない。時間の進みは皆平等だ。

気まずそうな顔で突っ立っている虎杖を抜かして、医務室を出る。

真依さんの姿はどこにもなく、居た痕跡すらない。あれほど全身全霊で感じていた体温、匂い、感触、声が嘘のように消去されている。

馬鹿な俺は、ここで初めて過ちを認識した。俺達の間に紡がれていたはずの糸が床に垂れ下がっているのを見てしまったのだ。