月の影取る猿【めぐまい】 (ページ2)

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落ち込む俺を見て釘崎は「比較するだけ無駄だと思うけど」と言った。

確かにその通りかもしれない。虎杖は天与呪縛持ちなのではと疑ってしまうくらい身体能力が高い。虎杖のそれは人間の域を越えていると思う。

だが、それに甘えていたらいつまで経っても成長できない。構造は同じ人間なのだから、俺だってやれるはずだ。

「……タイマー、貰う。頑張れよ」

「言われなくてもやってやるわ。特にあの女共にはね」

釘崎からストップウォッチを受け取り、俺の思考も記録もリセットする。数字が零に揃ったのを確認して、釘崎が言った女共とやらを目視した。

目線の先には京都校の女子達が居た。

メンバーは西宮先輩、三輪先輩、そして真依さん。彼女達はストレッチをしながら、自分の番を待っているようだ。和気あいあいと会話を楽しむその姿は、見ているだけで心を穏やかにする力を持っている。

……俺は真依さんが好きだ。それもどうしようもなく。

いつ好きになったのか、きっかけはなんだったのか、それらを思い出すことは叶わない。

これといった出来事はなくとも、俺は真依さんに首ったけである。真依さんの魅力の縁に少し触れただけで、あっという間に引きずり込まれたのだ。

そろそろ真依さんが走る番のようだ。向こうでペアの加茂さんと会話をしている。こちらも走り込みについての話題だろう。

さして楽しくもなさそうで、(特に真依さんは)取らなければならないコミュニケーションだから仕方なくといった様子だ。彼らにとってはなんてことのない日常の一部だろう。

だからざわつく心を必死に抑える。

呼吸を大袈裟にやってみたり(深呼吸と言えるほどの落ち着きはなかった)、理由もなく真依さんの片割れを見つめたり。

当然だが、真希さんを見たって気持ちは静まらない。むしろ逆効果であった。同じようで違う二人を同一視した自分にいらいらが募る。

だからといって真依さんをもう一度見ても、加茂さんが視界に入って、不愉快な気分になるだけであった。