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「……祝言はいつ挙げるんじゃ?」

 と、おじいちゃんが問うた。


 全てが思惑通りに進んで、私は内心 ほくそ笑む。


 父さんたちを亡くした今、二人を思い浮かべたら泣いてしまうが、おかげで、私にとって 涙を流すことは造作もないことになっている。

「……父さんたちが亡くなったばかりなのに、そんなこと……できないよ」

 声が震え、一筋の涙が溢れる。迫真の演技。


「あぁ、ごめんね。そうよね……」

 うっ……なんだか、だんだん申し訳なくなってきた。
 私の方こそ ごめんなさい! おじいちゃん、おばあちゃん。



 慰めるように、師範が私の肩を抱いた。

 すみません師範、私なんかのために……。
 心の中で、何度も謝る。

 それでも、不自然にならないよう、私も師範に凭れるようにして涙を流した。




「……私の荷物は、もうまとめてあるから、家の片付けが終わったら、すぐ引っ越そうと思うの」



「片付けなら、今ちょうど終わったぞ。儂らも今日 自分家に帰る予定だしのぅ」



「実弥さん、今日から孫がお世話になります。……二人とも、末永くお幸せに」




 その後の会話は、ざっくりとまとめると、こんな感じだ。



 いそいそ、という雰囲気で、話が進む。
 師範はほとんど話さないけど、ところどころで ちゃんと演技をしてくださった。

 師範も巻き込み 二人を騙してる私は、心苦しいこと この上ない。


 ……いや、でもでも。
 こうでもしないと鬼殺隊に入れないもん!


 そんなことを繰り返し考えていると、ようやく話が終わった。

 おばあちゃんたちに手を振って、父さんたちと暮らした家を出る。





「……師範、すみませんでした。おじいちゃんたちにも、いつか ちゃんと謝ります」


 師範は何も応えない。
 しばしの沈黙が降りた。




「……お前は本当に、礼も言えねえ奴だなァ」

 ふいに言われ、ハッとする。


「あっ、――ありがとうございました! 本当にこれで良かったか、自分でもわからなくなってきたんですけど、
師範のおかげで、誰かのために戦えます!」

「それは稽古に耐えてから言えェ」

「ゔ。……はい、頑張ります!」







 ……清々しい始まり方では なかった。
 私がこれから進む道は、泥だらけで血にまみれたものだとも、わかっている。

 覚悟の上だ。





 父さん。母さん。お空で見ててください。


 私は、最期に自分の歩いた道を振り返ったときに、
後悔しないように生きていきます。

八→←六



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黒渦クレナ(プロフ) - 春駒さん» あああありがとうございます!(動揺) 嬉しすぎて、文字打つ手が震えます…! 更新頑張りますっ! (2020年3月20日 15時) (レス) id: 232aa570e5 (このIDを非表示/違反報告)
春駒(プロフ) - か、神作の予感…!!続き楽しみにしてます!! (2020年3月20日 15時) (レス) id: db12751af0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒渦クレナ | 作成日時:2020年3月19日 21時

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