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「ちょっと見てくか。」
そう影山くんが言うものだから、驚いて彼を見上げた。
影山くんは何か考えがあるとか、そういう訳では無いようで。遠くを見てただ淡々とそう言うと、屋台に向かって足を進める。
「!、うん!」
私も慌てて影山くんの横に並んで歩き出す。
思い返せば、こんな風に外に2人で出かけるのは、多分初めてだ。
学校で一緒にご飯を食べたり、一緒に帰ったりはあったけど、ランニングついでとはいえ、何だかデートみたいで、とても嬉しかった。
「あ、少ないけど屋台出てるんだ。」
適当に願いを神様に伝えて、神社を後にしようとしていた時、ふとAが遠くを見てそう言った。
大して広くはない神社だ。数も相当少ないが、確かに屋台がポツンと出ていた。
俺は多分、バレー以外に関しては勘は鈍い方だと思う。それでも、Aの心情の変化に関しては、ほんの少しだが他の人より察することが出来る自信があった。
「(そろそろ体冷えてきたか……)」
さっきから何度か、Aが両手を擦り合わせている。さり気なく、俺が見ていないタイミングでやるもんだから、見逃しそうだったが。
さっさとランニングに戻るか、それとも、と屋台の文字に目をこらすと、甘酒と……雑煮か……?とにかく、あたたかいものであることはわかった。
屋台を見つけたAの声色は心なしか弾んでいて、多分、気になっているんだと思う。
だったら……
「ちょっと見てくか。」
温かいものを体に入れたら、少しは寒さもまぎれるだろうし、一応、せっかくここまで来たんだから、参拝だけして帰るのももったいない……という気持ちがないわけではない。
言えばAがバッと俺を見上げた。俺がそんなことを言うのが意外だったんだと思う。
「!、うん!」
どうやら俺の勘は当たっていたようで、Aは嬉しそうに頷いた。その笑顔に人知れずほっとする。
屋台に近づいてみると、売っているのは甘酒と雑煮とぜんざい。Aはその3つを眺めたあと、「座って待ってて!」とベンチを指さし、そそくさと屋台の方へと走っていった。人混みに紛れても、Aはでかいから比較的目立つ。
何やら2つ買って来たらしいAは、紙コップと紙皿を両手に持ち、財布をワキに挟んで覚束無い足取りで戻ってきた。そして、お雑煮の方を俺に差し出す。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時