22 『助けてください』 ページ22
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──泣かないでって、お前、え?何言ってんだよ。俺が自主的に泣いてると思ってんのか、オイ。お前、お前が泣かせてるんだろうが。
少女は口を開いて、また閉じる。声を発することができなくなったようだった。単純に、何を言えばいいのか分からなくなっただけでもあるが。
少年を自分の顔の上に落ちてくる水滴が何でもないように笑い、少女の涙を拭った。少女の頬には血の線が入った。
「──違うだろう」
不意に、少女の頭に何かが乗せられた。大きな手だった。温かかった。その手は少女の頭を優しく撫で、それからもう一度、はっきりと否定した。
「そうじゃないだろう」
煉獄の言葉に、少女の何かが崩れた。それは理性だとか、矜恃だとかいう名前だったかもしれないけど、ああ、でも、もう。
──もう。
少女が震えた。
「──うあああああああ!! ごめん!! ごべ、ごめぇん!! 酷いこと言った、ごべ、ごべんなざぁい!! 俺、俺はぁ!! 生きてて欲しい! お前に、生きてて欲しいんだよお!!」
少女が少年の体を必死に抱き締めて、絶対に離れないとでも言うように叫んだ。謝罪した。
少女の本音だった。先程のも少女の本音だったけれど、少年には、此方の方が少しだけ、少女の心に近づけた気がした。
「俺、ぇ! 死にたくない、死にたくないけど!! お前が死ぬのはもっと、もっとやだぁ!! やだ、やだ、いやだあ!! 死ぬなよ!! 置いてくなよぉ!! いやだあ!! 死なないでえ!!」
醜態を晒す、そんな言葉で言い表せないほど少女は泣き叫んだ。みっともない。不格好な。恥を晒すような。そんな有様だった。
煉獄は黙っていた。黙って、少女と少年の頭を撫でた。わあわあと泣く少女と、困った表情で死の淵に立っている少年の頭を、撫でていた。
「──ご、めん」
「謝らなくて、いいから"ぁ"!! 俺が、悪がった、がらぁ!! 神様ぁ! お願いします、助けて!! 何でもしまず!! だから、こいつを、助けて!!」
助けてくださぃ……!!
少女の嗚咽が、明ける直前の夜空に吸い込まれる。朝焼けが空を焦がす。
──もし神が居るとしたら。少女の願いを無視して、そしてこの世界を何も変わってないように回す神が居るとしたら。
「──」
とんだ世界だ。
煉獄は、ただ、撫でていた。
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白夜の世界(プロフ) - 内田さん» 応援ホントありがとう御座います……!皆様の心を動かせるような小説を書くために頑張ります!! (2020年4月15日 17時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
内田(プロフ) - はじめて読ませていただきました!すごく面白くて、少女ちゃんの生い立ち、すごく感動しました。これからも応援させてください! (2020年4月15日 16時) (レス) id: 2320622f76 (このIDを非表示/違反報告)
燐火 - 成程・・・。私の合作相手もそんな感じですよww (2020年4月14日 12時) (レス) id: 0a3e20f243 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 燐火さん» えぇ、合作はしない主義ですね。自分がパソコンにかじりついていられる時間が非常に不定期ということやその他諸々ありまして……。 (2020年4月12日 8時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
燐火 - 白夜の世界さんって合作とかしないんですか? (2020年4月11日 16時) (レス) id: 0a3e20f243 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年3月28日 16時