食事へ.2 ページ33
「ゴメンね。突然こんなこと言って」
ゴメンねって黒尾さんに謝られると、
「そんなことないです」って
普段なら答えるんだけど
「いえ。でも、
びっくりしました……」
手元のグラスにアルコールは
ほとんど残っていなかったけど
ほとんど透明の、
味のない液体を体に流し込む。
「どうする?まだ飲む?」
「ええっと……」
「時間、まだ大丈夫?」
スマホで時間を確認して
「あ、はい。終電に乗れれば」
「じゃあ、場所移動しない?」
「あ、はい」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
「はい……」
半分もないくらい、残っていたグラスの中身を
一気に飲み干して席を立つ黒尾さんをボーッと眺める。
突然の出来事に頭が追いつかない。
黒尾さんが?
私を?
なんでそんなことになってるんだろう?
てかこのまま飲みにいっても
何を話したらいいんだろう?
つい「はい」って答えたけど
とりあえず今日は帰るべきだったのでは?
グルグルグルグル考えていたら
「お待たせ。出よっか」
戻ってきた黒尾さんがスーツの上着を羽織るのを見て
「あっ!」
またやっちゃったかも
「え、なに?」
「もしかして、お会計……」
「気にしないで」
そんなことを言われても
「いや、だってこの前も……」
やっぱりまたやらかした。
今日はちゃんと出すって思ってたのに。
「俺が誘ったんだから」
「いや、でも……」
「カッコつけさせて?」
そんなことを言われたら
「………….すみません。ありがとうございます。
ご馳走様でした」
「どういたしまして。じゃ、行こっか?」
「あ、はい」
外に出ると、冬の空気がピリッと肌を刺す。
今週に入って一気に寒くなった。
「やっぱり冬はさみーなァ」
「ですね。そろそろコート出さなきゃ」
「俺は預けっぱなしだから、取りに行かなきゃな〜。
あ、次も場所俺が決めていい?」
「お願いします」
何もなかったかのような
いつも通りの黒尾さん
かたや私はなんだか黒尾さんを見ることが出来なくて
少し後ろをついて行く。
「あ、ごめん。歩くの速かった?」
「いえ!大丈夫です!」
私が遅れてると思ったのか
「そう?速い時はちゃんと教えて?」
「……はい」
一時間前とはうって変わって
どうしても勝手にぎこちなさが出てしまった。
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作者名:しの | 作成日時:2020年8月19日 0時