食事へ ページ15
「でも嬉しいです。
あんまり一人でもいたくなかったので……」
あ、ヤバ。
まだグラスのアルコールは半分も減っていないし
なんなら料理は出てきてないのに
なんでこのタイミングで
こんなことを口走ってしまったんだろう。
もし言うにしても、完全にまだじゃん。
「そりゃよかった。
じゃ、今日は美味しい料理とお酒。堪能しよう」
にっこり笑ってくれる黒尾さん
仕事ができる人って、結局なんでもできる人なんだなって
感心して、改めて尊敬する。
仕事のこととか、あとは恋愛以外の今までのこととか
美味しい料理をいただきながら、普段できない話をした。
黒尾さんが学生時代バレーをしていて
高校最後の大会で全国大会に行ったって聞いて
びっくりした。
お酒も進んでせっかくだから
会社じゃ聞けない質問をしてみる。
「黒尾さんって、彼女とかいないんですか?」
「ん?残念ながら」
「すっごい意外です」
「なんで?」
「だってめっちゃ人気ですよ?
人気っていうか、黒尾さんとお付き合いしたいって思ってる人
多分社内にすごいいます」
「ハハッ。知らなかったなー」
ビールのグラスを傾けながら
乾いた声で笑ってる。
「だから作ろうと思えばすぐにできると思いますよ?
実はあんまり興味ないんですか?」
「いや?興味はすごくありますよ?」
そうなんだ。
「どんな人がタイプなんですか?」
「んーーー。一生懸命な人、かな?」
「すっごいざっくりしてますね」
美人な人がタイプそう。
なんて勝手に思ってた。
「そう?Aは?」
「私、実はそういうのあんまりわからないんです」
「どういうこと?」
「…………私のおもしろすぎる話、
聞いてくれます?」
「うん。もちろん」
これまでの九年間と、ここ最近の出来事
初めて人に話した。
私が一気に話すのを
黒尾さんはただ、頷きながら聞いてくれた。
「だから私、本当に元彼しか知らなくて。
別に元彼がいたから、他にいいなって思うこともなかったし。
まぁ、元彼は違ったみたいなんですけどね(笑)」
「……よく頑張りました」
その言葉に、うっかりと溢れ出てきそうになるものを
グッと堪える。
「本当は、会社休みたいなって何回も思ったんですけど。
家を出さえすれば、仕事をしていた方が気が紛れてよかったです。
……ってすみません。こんな変な話して。
実は初めて話しました」

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作者名:しの | 作成日時:2020年8月19日 0時