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彼は誰なのか。
そう考えているうちに、彼は泣き止んでいた。
「ごめん、変なとこ見せて」
泣き止んだ彼は泣き腫らした目を逸らし、そう言った。
彼はこっちを見たりはしないけど、僕の腕をまだ掴んでいる。
そして、たまにこちらを確認するように見ては溜め息をついている。
一体何なんだろう、そしてこの人は誰なのだろうか。
僕が自分から話しかけることがない事もあり、沈黙が続く。
そんな沈黙を破ったのは主人だった。
「A、ご飯出来た……」
この光景を見たからなのか、
主人は固まって動かなくなり、主人の知り合いらしき人は僕の腕をサッと離した。
主人は笑顔のまま、動かない。
そんな主人とは対照的に主人の知り合いの顔色は悪く、真っ青。
再び沈黙が流れる。
沈黙の空間にいるのが嫌なのと。自分の腹の虫がうるさいのもあり、僕は口を開いた。
「誰ですか、この人」
手短にそう言うと、主人は落ち着きを取り戻した。
「双子の弟、蓮だよ」
「レン……？」
そう言っている主人はどこか悲しそうだった。
主人の弟はショックを受けた様な表情をし、膝から崩れ落ちた。
「俺のこと……忘れたのか？」
蓮は床に向かって泣き叫んでいる。
初対面でこんな事をされても、意味がわからない。変な人……としか思えない。
「やめろ、そいつは今日買った人形だ＿＿Aじゃない」
レンに返すように主人がドスの効いた声で怒鳴る。主人を恐れたのか、レンは逃げるように部屋から去っていった。
そして主人は僕に向かって、平然と「お腹すいた？」と聞いてきた。
今までの事があって、とても食べる気にはなれなかった。
「ごめんなさい、食べられない」
片言な日本語で断ると、悲しそうな顔をした末に主人は部屋から立ち去っていった。
扉が閉まると、何故だかとても前の主人に会いたくなった。
あの電話の後に僕は捨てられたのだろうか。捨てられたからまた、売られたのだろうか。
前の主人は態度は時々冷たかったけど、優しい時は優しかった。
今の主人みたいに、部屋もお金持ちでもなかったけど。愛情たっぷりの世話をしてくれた。
踊らせられるのは怖かったし、逃げたくもなった。
けど、終わった時に頭を撫でてくれた主人の顔が、優しく我が子を見守る親のようだった。
嗚呼、前の主人のもとに帰りたい。
この気持ちはホームシックと言うのだろうか。
ホームシックなんて、１５の僕が恥ずかしいものだよ。
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