49/松陽のゲンコツは世界一優しい ページ49
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「はぁ、はぁ、っあー! もう! ご褒美の甘味処消えた!! やっぱ手も足も出なかったぁ!!」
手足をバタつかせては汗だくの顔を顰めるA。
転倒した六本脚の昆虫のように、道場の床を背中で回る。そんなAを余裕の微笑みで見下ろしているのは汗一つかいていない、松陽。
そんな松陽をぐぬぬっと見上げるAだったが、観念したようにふっと汗を拭った。
「いいよいいよ、高杉とヅラ連れ帰ったらあいつら負かしてストレス発散してやりますよ。八つ当たりしてやりますよ」
「せめてまともな勝負をしてあげてください」
ハッキリと"八つ当たり"を宣言したAに、松陽は困り眉で言った。
「あー、頑張ってまともな八つ当たりするよ」
「八つ当たりにはかわりないじゃないですか。家族には優しくしないといけませんよ」
そっ、と構えられた右拳にAは青ざめる。
そんな恐怖ポージングを保ったまま歩み寄ってくる松陽。
慌てて立ち上がり、青い顔の前で腕を交差させガードを作ったが時すでに遅し。
松陽の拳は、Aのつむじに───
「…………へ?」
置かれた。が、埋まらなかった。
本当にただ、拳を置いただけ。
「松陽?」
「……。A」
────ごめんね。
瞬間。
ドガガッ!!!
轟音が鼓膜を突き刺した。
「なんっ」
「眠っていろ。小娘」
ガッ、Aの鳩尾に棒状がめり込んだ。
「っが……」
気絶する寸前。
微かに何かが焦げたような臭いが鼻をついた。
◇◇◇
うっすらと真っ暗な筈の瞼が赤くなる。
身体を炙られているような嫌悪感と腹部の激しい痛み。尻を擦られるような、引き摺られるような感覚。
反射的に口端を曲げ、それで意識が覚醒した。
目を開けると目前には炎。大きく、ごうごうと燃え盛る真っ赤な業火。
燃えているのは、
「………な、んで」
自分の襟を引く荒々しい他人の手。
自分の背後で整って歩く他人の脚。
自分の大切な人のあたたかな両手を縄なんぞで縛り上げる、他人。
「……はなせ」
背中で動かない両手。両腕。
食い込む。皮膚に食い込む。
動く、唯一自由な脚。二本も生えている脚。
噛みちぎれる。顔面がまだある。
「その人を離せェェェ!!!」
「!? 貴様っ」
汚らしい手を身体ごと振り払い、襲いかかった。
蹴る、頭突く、蹴る、噛む、蹴る蹴る。
「っあが」
しかし虚しい。
虚しく、首元を拘束する憎々しい棒切れ。
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佑依佳 - すごく良かったです。パスワードを教えてくれませんか (4月15日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
LIARPIERROT(プロフ) - こちらの作品のパスワードは作者様が作者ページに掲載してらっしゃいます。確認してからコメントしましょう。 (12月21日 20時) (レス) id: 7068d0a9b2 (このIDを非表示/違反報告)
茜 - 初めて読みました。とても感動して続きを読みたいと思いました。なので続きを読ましていただきたくパスワードを教えてくれないでしょうか?これからも頑張ってください!! (11月19日 15時) (レス) id: fd0a1b2f31 (このIDを非表示/違反報告)
菖蒲 - 続きを読みたいのですが、パスワードを教えてくれませんか? (10月20日 12時) (レス) id: de6a447dfa (このIDを非表示/違反報告)
白虎 - 続きを読みたいのですが、パスワード教えてくれませんか? (8月16日 23時) (レス) @page3 id: ec81a6d504 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:糸針 | 作成日時:2018年9月21日 23時