48/烏の跫音 ページ48
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───かァ、かァ。
耳に障る烏の鳴き声が夕方から途切れることなく流れている。
帯で揺れる鈴の音は烏の濁声に潰される。
それも、不愉快だし。
外に出たきり中々帰って来ない高杉と桂についても、全く心配しない薄情者でもないし。
「遅いな……。なぁ松陽、探しに行かないか?」
刀にもたれることをやめ、縁側に座る松陽に声をかけた。
おもむろに振り返った松陽の顔は、どうしてか少し陰っていた。
「その前に、一本だけ勝負しませんか」
月明かりが機能してくれない。
松陽の顔がどんどん黒く見えてきて、Aは思わず目尻を指で揉んだ。
月ってもう少し明るいものじゃなかったっけか、と。月を仰いでみるとちゃんと光っている。
唾を飲み、松陽の左手側に立った。
「何だよ急に。昨日だって散々打ち合っただろ」
「駄目ですか。今日こそは私に勝てるチャンスかも知れませんよ?」
「……昨日も一昨日もその前も前も前も手も足も出なかったのに今日挑んであっさり勝てるかよ。まさか、手ェ抜く気じゃないだろうな」
んー? と松陽の顔を覗き込むA。
手加減が何より嫌いな彼女はそういう気配を感じただけでも、この通り眉間に深い深いシワができる。
そんな娘の顔に、松陽はふっと笑った。
「Aの嫌がることはしませんよ」
「……ならいいけどさ」
体勢を直しぷいっと腕を組む。
眩い程の月に瞼を歪めると、真剣を部屋の隅に立て掛けて、また松陽の隣に立った。
「今日こそ勝ってやるからな!」
「……はい。以前に言ったように」
「わかってるよ。"人の剣"でしょ?」
自信ありげに応えたAに、松陽は花を生けるように笑った。
Aもまた笑い、微かな幸福が流れた。
それを壊さぬよう静かに立ち上がった松陽は「さぁ、行きましょう」とAの手を引く。
「───あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや……、今何か」
門のある西をジッと見つめ足を止めたA。
よりも目線が上にある松陽にだけ、辛うじて見えた。黒く、そして底知れぬ闇を抱えた忌まわしきそれの羽が。
スン、とほんの一瞬だけ唇を震わせた。
「きっと鳥か何かでしょう」
「そっか。あ。そうだ松陽」
「……?」
「私が勝ったらご褒美に明日、甘味処に連れてってよ」
────。
「……勝てたら、ね」
49/松陽のゲンコツは世界一優しい→←47/最っ高のおめかし
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佑依佳 - すごく良かったです。パスワードを教えてくれませんか (4月15日 10時) (レス) id: 4b4e019a12 (このIDを非表示/違反報告)
LIARPIERROT(プロフ) - こちらの作品のパスワードは作者様が作者ページに掲載してらっしゃいます。確認してからコメントしましょう。 (12月21日 20時) (レス) id: 7068d0a9b2 (このIDを非表示/違反報告)
茜 - 初めて読みました。とても感動して続きを読みたいと思いました。なので続きを読ましていただきたくパスワードを教えてくれないでしょうか?これからも頑張ってください!! (11月19日 15時) (レス) id: fd0a1b2f31 (このIDを非表示/違反報告)
菖蒲 - 続きを読みたいのですが、パスワードを教えてくれませんか? (10月20日 12時) (レス) id: de6a447dfa (このIDを非表示/違反報告)
白虎 - 続きを読みたいのですが、パスワード教えてくれませんか? (8月16日 23時) (レス) @page3 id: ec81a6d504 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:糸針 | 作成日時:2018年9月21日 23時